こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
仮に不動産価格が下がった時に購入したとします。
けれども、そこから更に価格が下がり続けて価格はもはや戻らない可能性はあるのでしょうか?
というご質問にお答えしています。
本年からアメリカ不動産市場は本格的に価格が下がってくる可能性があると見ています。
厳密には値下がりの傾向はすでに見え始めていますが、その下げがどれくらいの規模になるかは正確には分かりません。
1929年以降の大恐慌の際には3年に渡り4ポイント下がったことは記録として残っていますが、もしも今回の景気後退がかの大恐慌と同レベル、もしくはそれ以上に下がることがあれば4ポイント以上の値下げはあり得るかもしれません。
概ね2007年~2012年の時ほどは下がらないと見る専門家は佐藤の周りにも多くいますが、その判断は今はまだ時期尚早かもしれません。
全ては時が伝えてくれることですが、まずは本年の夏までに出てくる数字を検証し、ベクトルの向きを確認するのが良策だと思います。
そしてこのままアメリカ不動産価格が下がった場合、その下げ具合に関わらず上記のご質問のように
「その後にもう価格は戻ってこないのでは?」
そんな心配をされる方々もおられるようですが、昨日お伝えしたように私(佐藤)自身は
「下がった不動産価格が後に再び上昇しない理由は見つからない」
と考えています。
ここで不動産需要の三大要素を思い返してみましょう。
人口
人口動態
賃金・雇用機会
これらの要素の中で今回大きく崩れてくると思われるのが3番目の「賃金・雇用機会」です。
この部分が昨日例えた、タンクの水面に浮かぶゴムボールを水面下に引っ張っていく力学の一つになります。
アフターコロナの世界では経済が完全に戻るまでに
5年はかかる
10年はかかる
と様々な見解を聞きますが、いずれにせよ経済が元に戻るということは上記3番目の条件が戻ってくるということです。
そのスピードは時間軸で見るとゆっくりしたものかもしれませんが、ゴムボールを下に押し上げる力が弱まるにつれ、ゴムボールは再び水面に浮き上がってくる公算が高いと思うのです。
そしてゴムボールが再び浮いてくる可能性が高いと考えられる主な要因は他にもあります。
それは、Inventory(在庫)という因数です。
物件価格に影響するInventory
最初にアメリカ不動産の場合のInventory(以下在庫)について概要を理解しておきましょう。
小売業界においてマーケティングを考察する場合、在庫は当然の因数として出てきます。
先日は
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)
について簡単に触れましたが、仕入れたモノが売れてお金に代わるまでの期間がCCCであり、CCCが短いほど経営が楽になる道理があります。
そして不動産物件もまた実態のある「モノ」であり、モノが市場に出る以上は「在庫」という概念が存在するのです。
そこで不動産物件の場合、統計上で在庫の数値を見るのに
1、2、3、4、5、6 。。。
というような整数を統計で見ることになります。
この整数は何の単位かといえば、「物件が市場に出てから売れるまでの月間数」を表しています。
つまり、物件は市場に出されたその日を境にして売れるまでにかかった月間数がカウントされることになるのです。
例えば地域市場において在庫が「4」と表される場合、その地域市場では物件が市場で出されてから売却されるまでに「平均4か月かかっている」ことになります。
この整数で表される数値が小さければ小さいほど、物件はその市場において短い期間に売れていることになります。
ただし、同じ在庫とは言えども不動産における在庫の意味合いは通常の物販の在庫数とは大きく違う点があります。
通常の小売業界では、在庫の回転が早ければ早いほど良いと考えられています。
けれども不動産業界の場合、在庫の回転が早ければよいというわけではないのです。
それは何故でしょうか?
在庫 = 水の純度で例えると
ここに、在庫と不動産価格の密接な関係が出てきます。
分かりやすいように在庫を1と6の数字で比べてみましょう。
1 ⇒ 物件の流れが速い
6 ⇒ 物件の動きが遅い
ということになりますね。
そこで上の2つを比較した場合、その市場に存在する絶対物件数はどちらの方が多いと思われるでしょうか。
前者のように流れが速いということは、「市場に出ている物件そのものが少ない」ということです。
そして反対に、後者のように流れが遅いということは「市場に出ている物件が多い」ということになります。
結果として、前者の在庫1と後者の在庫6を比較した時にどちらの状態が物件価格は高くなりがちでしょうか?
もうお分かりと思いますが、前者の在庫1の方が市場にある絶対物件数が少ないわけですから、数少ない物件に需要が集中する為に価格が上がる現象が起こるのです。
アメリカ不動産市場の場合、3%程度の健全な物件価格上昇率が出てくる為に必要な在庫数は「6」と言われています。
すなわち、物件が市場に6か月間出ている状態が最も市場バランスが取れた状態なのです。
そして実をいうと2020年5月現在、この在庫数が示す数値はほぼ「3」です。
つまり、健全な価格上昇を実現できる在庫よりも半分の数値でしかありません。
下記のグラフをご覧ください。
少し古い数字ですが、この通り2019年の年末で3を示しています。
この在庫3という数字、実はアメリカ不動産市場の歴史では相当低いのです。
このことは
「今のアメリカ不動産市場は物件数そのものが不足しており、需要に対して供給が全く追いついていない」
ことを如実に表しています。
昨日のタンクの水で例え、水の純度(在庫)を1~6としてみましょう。
6は全く塩分がない(在庫がちょうどよい)純粋な水、反対に1は純度が低く塩分濃度が濃い(在庫が少ない)状態です。
現在の純度は3ですから、タンクの水には結構な塩分があることにあります。
この塩分が浮力(少ない在庫に対する需要)となり、ボールを水面に押し上げる力となるわけです。
今後、買い控えが起こる中で在庫(市場に残る期間)は多少上がるかもしれません。
けれども物件絶対数が少ないことに変わりはありませんから、経済が元に戻るにつれて在庫は「3」に間もなく戻り、高い塩分はボール(物件価格)を再度押し上げていくと予想されるのです。
。。。
2日間に渡りお伝えしてきましたが、以上の理由から純粋に物件価格に影響する力学で考えた時には
「不動産価格が下がったとしても、経済が元に戻るにつれて物件価格は再び上昇し始める」
という公算は高いと思います。