昨年以来、米ドルで資産運用を志す方々からのコンサルティング依頼が急増しています。
弊社ではアメリカ不動産コンサルティングに加え、州規制当局に登録されるRegistered Investment Advisor (RIA)としてアメリカ国内での資産運用全般のコンサルティングも提供しており、内容は不動産投資以外となりますが、初心者の方々からのご質問を総括する意図で株や債券に関するまとめ記事を1月7日から期間限定であげさせて頂きます。
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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
米国最高裁判所がにより再び衝撃的な判決が出されました。
昨日はEviction moratorium(強制退去禁止)について簡単におさらいしていきましたが、パンデミック以降
1.Eviction moratorium(強制退去禁止)を施行。パンデミック下の混乱を防ぐために一時的にテナントを守る。
2.Eviction moratorium(強制退去禁止)の期間を延長(複数回繰り返し)
3.アラバマ州とジョージア州の不動産協会により「強制退去禁止は違憲」との訴え
4.米国最高裁判所が違憲と認め、7月31日で完全失効
5.バイデン政権の働きかけにより8月3日に「限定的施行」との触れ込みで再施行
このような流れで延長と訴訟の流れがありました。
最近の動きでは「5」の結果
● コロナウイルスの拡散が甚大である地域(https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#county-view)のテナントを強制退去禁止の対象エリアとする
● 強制退去禁止は8月3日から10月3日までとする。同地域の中でコロナウイルスの拡散が収束したとみなされる地域では強制退去禁止の対象から外す。
● 対象地域の対象テナントは物件オーナーに誓約書を提出すること。すでに提出している場合は再度提出の必要はなし。
● 過去の累積家賃について免除はなされない。
CDCによる限定的な強制退去禁止施行内容(2021年8月3日)
このような限定的ルール(実際は限定的というより全体的)が施行され、10月3日まで継続される予定でした(そしておそらく10月3日以降も再度延長)。
ところが8月3日の決定以降に素早く動いていたのが
- アラバマ州とジョージア州の不動産協会
- その他の不動産関連機関
です。
この訴えを受けた審議の結果、米国最高裁判所により
「10月3日までの限定的延長は無効」
との判決が下されたのです。
そもそも8月3日に打ち出された限定的再施行は米国最高裁判所による判断ではなかったことが分かりますが、ここは「なぜ8月3日から再施行が実現していたのか」については明確な報道がありません。
いずれにせよ、ここに連邦政府レベルでは改めて
「Eviction moratorium(強制退去禁止)は失効した」
と決定されたことになります。
ちなみに改めて補足ですが、今回の米国最高裁判所の決定はあくまでも「連邦政府レベル」のものです。
連邦政府制度を採用する米国では
連邦政府レベルの法律
↓
州政府レベルの法律
↓
郡政府レベルの規定
と下にさがるほど実行力が強く、かつ不動産業界においては
「州と郡の規定が一致しない場合、厳しいルールを優先する」
という前提があります。
今回のEviction moratorium(強制退去禁止)は不動産業界というよりもCDC(アメリカ疾病予防管理センター)から打ち出されていましたのでこの限りではありませんが、一つ変わらないのは
「連邦政府レベルで無効になったとしても、州政府で同様に無効にするとは限らない」
という点です。
その意味では本件の原告である
アラバマ州
ジョージア州
では今回の米国最高裁判所の無効判断を歓迎しているでしょうし、両州内のほとんどの地域では
「ここからは強制退去は可能」
と判断されたことになります。
それとは反対にカリフォルニア州やニューヨーク州等の民主党よりの州ではバイデン政権に呼応して積極的にEviction moratorium(強制退去禁止)を延長してきた経緯があります。
ここには民主党の州と共和党の州で違いが出てくることになりますが、概ね
「多くのアメリカ不動産市場で強制退去が可能な段階に入った」
ことは間違いありません。
最終的に350万世帯が住居を失う可能性
そこでここから数字でポイントを押さえていきましょう。
今回は
こちらからゴールドマンサックス(以下GS)が発表している数字を使いますが、GSの予想では
「アメリカ全土で強制退去が可能となった場合、最終的に約350万世帯が住居を失う見込み」
とのこと。
ここで疑問が出てくるのは
「家賃滞納者には米国政府からの家賃支援プログラムが開始されているのではなかったか?」
「なぜ350万世帯も強制退去になるのか?」
という点ですが、ここは単純に
「家賃支援プログラムの申し込みに対する米国政府の処理の遅さ」
に原因があります。
今回のパンデミックにあたり米国政府が家賃支援用に用意した準備金は
$2.5ビリオン(1ドル100円換算で2,500億円)
でした。
ところが支援プログラムを準備したのはよいものの、肝心な政府機関の受付が混乱しており
「予算の使用率は2021年8月度時点で10%程度」
となっている様子。
そしてこの点がバイデン政権並びに民主党よりの州が
「政府からの家賃支援予算をまだ使い切っていない。物件オーナーも潤うのだから強制退去禁止は延長されるべきだ」
と主張し続けてきたポイントでした。
ところが連邦政府レベルで
「ここからは強制退去は可能」
とされた今、米国そのものとしては家賃滞納の世帯に対して強制退去を行う方向に舵を切ったと言えます。
そこで上記にあるGSの予想としては
「本年の第4四半期開始までに対象世帯の90%が家賃支援プログラム使用の道が断たれる」
「それに伴い、本年末までに75万世帯が引っ越しを余儀なくされる」
「結果として2万人の雇用が失われる」
というものです。
ここは従来の予想どおり本年内にアメリカ経済そのものが一つの節目を迎えることになり、FRB(連邦準備制度理事会)の舵取りも加わってアメリカ不動産市場も大きな転換点に入り始めることになりそうです。
引き続き市場を観察していきましょう。
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