こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
家賃上昇率が随分と落ち着き始めた賃貸市場の様子についてお伝えしています。
「最近は家賃がかなり高い」
「上昇率が半端ない」
そんな声は全米あちこちで聞かれる昨今でした。
事実、とりわけメトロエリアにおける家賃上昇はけたたましく、実際に上昇し続ける家賃に嫌気がさして他州に引っ越す人々も多くいたのです。
とりわけパンデミック以降は物価高と共に家賃も激しく上昇し始め、その辟易感が全米を覆っていた最中に昨年始まった金利上昇の良好な副産物として、
「家賃上昇率が過去の水準に戻ってきた」
ということになります。
そこでここ近年は家賃はかなりの勢いで上昇し続けてきたわけですが、そんな賃貸市場に対して不動産投資家としてはどのように反応するべきでしょうか?
「周囲の平均家賃がどんどん上昇している」
「絶好のチャンス。この波に乗って、自分の物件の家賃も大きくギリギリまで引き上げる!」
このような考えは投資家としてはごく平均的な、当たり前の感覚だと思います。
綺麗ごと抜き不動産投資は「不動産事業」であり、立派なビジネスです。
ボランティアで経営はできませんし、需要と供給の関係から価格上昇が正当化されるのであれば、遠慮なく値上げは実行するべきだと思います。
ただし、私(佐藤)自身はこのような状況下では、あえて周囲に合わせて家賃をトップレベルで上昇させることはしません。
それよりも最適解は
「市場平均家賃よりも少し安くする」
です。
ここはテナントの立場にたってみるとよく分かりますが、
「周囲の家賃はどんどん上がっている」
「自分が暮らす物件の家賃は近所よりも安い。かなり得している気分だ」
「この物件から退去すると、バカ高くなった家賃上昇の渦に飲まれてしまう。。」
そんな風に、テナントは家賃が安い状況を手放したくありませんから、心の中に「沈黙のロック」がかかってしまうのです。
この式で
テナントは長期滞在する傾向が出てくる
けれども予定していたよりもキャッシュフローは出てくる
という状況に身を置いた方が、無理に周囲の家賃平均に合わせるよりも長期的には得するはずなのです。
賃貸市場の今について、本日も続けます。
家賃を抑える複数の要素

昨日は
低金利でつかんだモーゲージを手放したくない層が増えている
引っ越し数が減少
結果として2008年とは正反対の現象が起こっている
というポイントを押さえました。
昨年比で、新たに賃貸市場に出てくる賃貸物件が1年間で15%以上増加していたのに対し、実際にアメリカ人が支払った平均家賃は過去1年間で4.8%ほど上昇しています。
賃貸物件は15%増加
平均家賃は4.8%
です。
同時にここは前述の佐藤がとるやり方と同じですが、実際に賃貸契約更新時の平均的な値上げは、新しい賃貸物件を借りるときの家賃よりも随分と低い為、多くのテナントは引っ越しをしようとは考えていません。
実は今の傾向はアメリカでは1948年以来最低の引っ越し率であり、統計によるとアパートメントの賃貸契約更新率は65%と、2019年からほぼ10%上昇しています。
こうなってくると、賃貸物件が増える過程では競争が激化し、家賃そのものに対するベクトルは下に圧力がかかります。
同時に、多くのテナントは、新しい賃貸物件が出している市場平均家賃よりも大幅に低い家賃を支払っており、契約更新が市場平均家賃の上昇に全く追いついていません。
結果として既存の物件に留まるテナントにとっては、引っ越しを検討したところで大幅に高い価格を支払う必要がある場合、引っ越す理由が全くないのです。
それと同時に、他のいくつかの傾向も家賃上昇率が落ち着いた状況に貢献しています。
最初に語れるのがデベロッパーによる新築の建設です。
コロナ禍において延期された多くの開発案件が、ここからは供給を増やし始めています。
さらに、2022年中頃には、インフレーションと家賃の上昇が限界に達していました。
この傾向により、アメリカ人の中で「共同生活(により家賃を下げる)」の傾向が現れ、良い意味でそれまでの家賃上昇に大きく冷や水を浴びせたのです。
またここに加えて賃貸需要を低めているのが若い世代の住環境です。
「しばらくは親の家に世話になろう」
そんな風に考える若い世代は確実に増えています。
親の経済的支援を必要としている成人のうち、3人に1人がそのような状況にあり、特に20代前半の世代は一度は外に出ても、再び両親の家に戻るケースが多くなっているのです。
更には多くのアメリカ人が自宅の部屋や一部を賃貸することにも積極的に動き始めています。
著名サイトRealtor.comの調査によると、物件オーナーの51%が自宅の余分なスペースを賃貸することは構わないと考えており、その割合はミレニアル世代で最も高く67%が構わないとしています。
その割合を反映するかの如く、ルームメイトと一緒に生活するアメリカ人は近年非常に増加傾向にあるのです。
ここまでにお伝えした全てのトレンド要素が、近年急上昇してきた賃貸価格を少し前の水準に戻しているのです。
住は人が生きていく上で根本的に必要なニーズですから、過度な家賃上昇にはあらゆるリスクが伴います。
その意味で特に本年から家賃上昇率が落ち着いてきた事実は、不動産市場全体が健全化する上で好材料のように思います。
ここから、特に今の若い世代の賃貸事情を見ていきましょう。
明日に続けます。