こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
市場の様子についてお伝えしています。
先日、S&P CoreLogic Case-Shiller National Home Price Index(HPI)が9月の結果を発表しました。
HPIはいわゆる物件価格指標であり、アメリカの住宅価格の変動を測定するために広く利用されている指数で、特に住宅市場の健全性を評価したり価格動向を把握したりするために重要な役割を果たします。
ケース・シラー指数は住宅ローン市場や公的記録に基づいて作成され、通常2か月遅れで公開されますが、季節調整データと非調整データの両方が提供されるため、年次変動や季節的な影響を考慮した分析が可能となります。
この指数は不動産市場の分析、投資判断、経済の先行指標として利用され、長期的なトレンドを把握するためのデータとして1980年代以降の情報が蓄積されているのです。
指標の強みとして正確性や長期データの蓄積、地域別の詳細な価格動向の把握が挙げられる一方で、データ公開の遅れや対象範囲の制限といった課題もありますが、少なくとも不動産市場や経済全体の動向を評価するために非常に有用なツールです。
そこで今回は
「2024年9月のアメリカ住宅市場の動向とそれがもたらす影響」
について詳しくみていきましょう。
2024年9月の住宅価格動向
2024年9月の住宅価格は、前年比3.9%の上昇にとどまりました。
これは、8月の4.3%や7月の5%からも明らかに減速しています。
さらに、月次では0.1%の減少が見られ、通常この時期に見られる価格上昇傾向とは対照的な結果です。
この動きは単なる一時的な調整ではなく、住宅市場全体が「熱狂的な高騰期」から「冷静な成熟期」へ移行している兆候と捉えるべきです。
金利上昇や購買力の低下が原因で需要が減少していることを示していますが、これ自体は市場の健全性を取り戻すプロセスの一部とも言えます。
例えば、過去数年のような急激な価格上昇が続けば手頃な価格の住宅はさらに減少し、格差が広がる結果となるのではないでしょうか。
価格が適正水準に近づくことは、多くの買い手にとって歓迎されるべき動きです。
地域別の価格変動:ニューヨークとデンバーの対照的な現実
9月のデータでは、ニューヨーク市が前年比7.5%の価格上昇率を記録し、トップとなりました。
その一方でデンバーはわずか0.2%の上昇にとどまり、かつての高騰市場が冷え込んでいることが分かります。
ニューヨークのような都市部では、人口の集中や高い需要が引き続き価格を押し上げています。
一方でデンバーのように需要が一時的にピークを迎えた市場は、現在「価格調整」の段階にあると考えられます。
都市別の動向を読み解く際には、その地域の経済的背景や人口動態が重要です。
例えば、ニューヨークは国際的な需要が高いため、他都市よりも価格の下支えが強いのです。
一方、デンバーではテクノロジー業界の成長が鈍化し、住宅市場への影響が顕著に現れています。
住宅在庫の増加:需給バランスの変化
9月から10月にかけて、売れ残り住宅の在庫が0.7%増加し、総在庫は137万戸に達しました。
この在庫量は現在の販売ペースで4.2か月分に相当します。
在庫の増加は、市場が「売り手優位」から「買い手優位」にシフトする初期兆候と考えられます。
特に近年のような住宅不足の状況では、この動きが市場にどのような影響を与えるかを注意深く観察する必要があります。
一方で、在庫増加が急激すぎると価格下落につながり、特に住宅ローンを抱える売り手にとって負担となる可能性があります。
このため、在庫の増加が徐々に進むことが市場安定化のカギとなるのです。

住宅ローン金利の影響:買い手の負担
そして30年固定住宅ローン金利は6.84%と高水準を維持しています。
この金利はパンデミック前の3%台から倍増しており、買い手にとって月々の負担が大幅に増加しました。
金利上昇は、住宅市場における最も大きな「抑制要因」の1つです。
特に初めて住宅を購入する若い世代にとって、高金利は購入意欲を大きく削ぐ要因となります。
ただし、金利が高いということは、同時に「短期的な投機的需要」が抑えられるという側面もあります。
これにより、住宅購入が長期的な生活計画の一環として見直される傾向が強まる可能性があるというわけです。
新築住宅販売と既存住宅販売の対照
そして9月には新築住宅販売が4.1%増加し、年率738,000戸と高水準を記録しました。
その一方で既存住宅販売は1.0%減少し、年率384万戸という低水準です。
新築住宅市場が好調である一方、中古住宅市場が低迷している理由の1つは、高金利が既存住宅のローン引き継ぎを難しくしている点です。
既存住宅を売却する際には、新たな住宅購入時に高金利のローンを組む必要があるため、売却を控える人が増えています。
これに対し、新築住宅は建設業者が金利補助を提供するケースがあり、買い手にとって魅力的な選択肢となっています。
投資家への影響と戦略
このような住宅市場の変動は、不動産投資家にとって機会とリスクを同時にもたらします。
特に上場投資信託(ETF)やREITを通じた間接的な投資に注目が集まっています。
市場が冷え込んでいる今こそ、長期的な視点での投資戦略を見直すべき時期です。
例えば高利回りの賃貸物件や、人口増加が見込まれる地域での土地購入などが挙げられます。
また、短期的な利益を追求するよりも、安定したキャッシュフローを生み出す資産を選ぶことが、現在の市場環境においては特に大切だと思います。
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結果としておおむね、専門家は2025年にかけて住宅市場が安定化し、価格上昇がさらに緩やかになると予測しているようです。
一方で金利動向や在庫の増加ペースによっては、さらなる価格調整が起こる可能性もあります。
市場の冷却は一部のプレイヤーにとってはリスクとなる一方で、慎重な計画と的確な戦略によって大きなチャンスにもなり得るのではないでしょうか。
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