こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
企業透明性法(Corporate Transparency Act、以下CTA)
の登録義務付けについて、軽く驚く記事が出ていました。
CTAは2021年1月にアメリカで成立した法律で、企業の透明性を向上させることを目的としたものです。
この法律は特に犯罪やマネーロンダリング、テロ資金供与を防ぐため、小規模企業や有限責任会社(LLC)の実質的所有者に関する情報を米国財務省の金融犯罪取締執行ネットワーク(FinCEN)に報告することを義務付ける、とするものです。
要するに
「小規模企業や有限責任会社は、その身元(会社を所有する個人)を完全に明かしなさい」
「身分証明書を提出して身の潔白を証明しなさい」
というものです。
これにより、ペーパーカンパニーを摘発しやすくできることになります。
実際に私(佐藤)も所有する複数の法人がこのCTA対象となるため、特にこの2024年は対応に追われたのでした。
けれどもこの報告義務は企業の負担増加やプライバシーの懸念を引き起こし、賛否両論を生む結果となりました。
CTAが求めるのは、法人やLLCの実質的所有者について詳細な情報を収集し、犯罪防止の観点からこれを活用するというものです。
例えば、法人については会社の正式名称や所在地、納税者番号などを、実質的所有者については名前や住所、生年月日、さらにパスポートや運転免許証などの識別情報を報告する必要があります。
このように詳細な情報を義務付けることで匿名の企業構造を悪用した違法活動を抑止しようという意図があります。
とはいえ、小規模事業者にとって、このような報告義務が過度な負担をもたらす可能性が指摘されています(実際、かなり面倒でした)。
差し止めされた経緯
そうしたところ案の定というか、2024年12月3日、テキサス州東部地区連邦地方裁判所は、CTAの報告義務に関する全国的な執行差し止めを命じました。
この裁判所の判断は、同法が合衆国憲法に違反する可能性があるとする複数の主張に基づくものです。
具体的には、CTAが州の権限を侵害している点や、企業に過度な報告義務を課すことが個人のプライバシー権を脅かす可能性がある点が問題視されたのです。
第一に、連邦政府が企業の透明性を目的にこのような法律を制定することは、州が本来有する規制権限を侵害すると考えられています。
例えば法人設立や運営に関する規制は、伝統的に州が担当してきた分野です。
連邦政府がこの領域に介入することは、州と連邦の権限分立の原則に反するという指摘であり、これはもっともな論です(要するにテキサス州は権限を侵されてムカついた、とも言えます)。
また、CTAは企業の実質的所有者に関する詳細な個人情報を収集することを義務付けており、これがプライバシー権の侵害につながる可能性があると主張されています。
特に、情報が当局であるFinCENによってどのように保護されるのか明確な保証がないことが懸念されているわけです。
このような懸念が高まる中、テキサス州裁判所はCTAの報告義務を一時的に停止することが必要と判断したことになります。
とはいえ、この差し止め命令は暫定的なものであり、今後の控訴審で変更される可能性があります。
裁判所の決定がどのように解釈されるかによって、CTAの将来的な執行が大きく影響を受けるなると思うのです。

今後どうなると予想されるのか
CTAの執行が今後どのように進むかは、控訴審の結果や立法府での議論によって左右されることになるはずです。
仮に控訴裁判所が今回の差し止め命令を支持すれば、CTAの報告義務が恒久的に停止される可能性もあります。
その一方で、差し止めが解除されればCTAは予定通り施行され、小規模事業者を含む多くの企業が報告義務を果たさなければならないというわけです。
このような中、企業が取るべき対策として、CTAに基づく報告準備を進めながらも、「今は保留して提出を控える」ことが推奨されています。
私(佐藤)自身はさっさと所有する会社のすべてを登録してしまったので手遅れですが、控訴審での判断が下るまで、法的リスクを最小限に抑えるために慎重な対応が薦められていることになります。
また、立法府がCTAの修正を検討する可能性もあります。
例えば報告義務の範囲を縮小したり、特定の事業者に免除規定を設けたりすることで、企業の負担を軽減する方向性が議論されるかもしれません。
いずれにせよ、マネーロンダリングや犯罪防止という目的を踏まえれば、CTAの完全な撤廃は難しいのではないでしょうか。
そうすると、企業側もCTAが実施されることを前提に、内部体制を整備する必要があります。
例えば実質的所有者の情報を正確に管理し、迅速に報告できるシステムを導入することが求められるはずです。
このような準備が整っていれば、法改正や新たな規制にも柔軟に対応できます。
かくして、CTAの執行をめぐる議論はまだ終わりを迎えていませんが、CTAに引っかかる企業としてはどちらに転んでもいいように、積極的な準備が必要となりそうです。
投資案件をメールマガジンで無料購読。
下記よりメールアドレスをご登録ください。