こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
2024年12月9日に最近の経済指標が公開されましたが、今回の発表はアメリカ経済の回復力と課題を浮き彫りにしているようです。
特にサービス業のインフレ圧力が依然として強く、連邦準備制度(Fed)のインフレ抑制政策を難しくしている点が注目されます。
コロナ以降、特にFEDは過度なインフレを抑制する政策に取り組んできました。
けれどもインフレ圧力は強いままで、その微調整に苦心する結果が見て取れます。
サービス業の活動は減少傾向にあるものの価格は上昇を続けており、ということは
賃金-物価スパイラル
のサイクルが顕著になっているのが現状なのです。
サービス業が減少
実際、サービス業の活動を示すISMサービス指数は11月に予想以上の減少を記録しました。
雇用、業務活動、新規受注、供給者の納期といった主要な要素がすべて低下しましたが、四つのうち三つは依然として拡大領域にあります。
けれども価格支払いコンポーネントは58.2に上昇。
これは10月のサービス業における賃金成長率が0.6%と、過去数ヶ月で最高水準に達したことを反映しています。
このような賃金の上昇はサービス業のコスト構造を押し上げ、価格上昇の主要因となるものです。
一言でいえば
「アメリカは物価高が進んでいるが、さらに進む可能性がある」
ということになります。
賃金が上昇する背景には、労働市場の逼迫とインフレ期待が挙げられます。
消費者や労働者が物価上昇を予想し、生活費に対応するための賃金引き上げを要求する心理がきっかけとなり、企業はそれに応じて賃金を上げる流れです。
日本人の場合は企業に積極的に給料を上げるよう交渉する個人は少ないようですが、米国では賃上げ要求は個人が普通に行います。
すなわち
1.物価高を要求して賃上げ要求
2.企業も物価上昇を予想して応じる
3.家賃上昇分がサービスやモノの値段に反映される
4.本当に物価高になる
という式で物価が上昇してくるわけです。
結果としてコストが増加し、企業は価格を引き上げざるを得なくなります。
この価格上昇が再び労働者の賃上げ要求を引き起こし、結果として賃金-物価スパイラルが発生するというメカニズムです。
このスパイラルの進行は、特にサービス業で顕著です。
需要が比較的安定しているため価格の粘着性が強く、価格上昇が容易に受け入れられやすい環境にあります。
また、近年の関税政策や物流問題などの供給面の課題も、コスト上昇と価格転嫁を助長しています。
たとえば、電子機器や医療供給品において価格上昇の懸念が指摘されています。
これらの外的要因がスパイラルをさらに加速させているのが現状というわけです。
不動産業界でも価格上昇
住宅建設分野でも価格上昇の影響が見られます。
10月の総建設支出は0.4%増加しましたが、その主な要因は住宅改善活動の活発化によるものです。
一方、非住宅部門は高金利や信用引き締めの影響で減少傾向にあります。
住宅改善活動は2.7%増加し、シングルファミリー住宅の建設も増加に寄与しましたが集合住宅の支出は前年同期比で6.8%減少しています。
非住宅部門では、商業施設や医療施設の支出が大幅に減少した一方、データセンター建設だけは例外的に強い成長を見せ、年間で37%増加です。
その一方で、消費者心理にも変化が見られます。
12月初旬の消費者信頼感指数は74.0と9ヶ月ぶりの高水準に達しましたが、この上昇は主に現状に対する楽観的な見方に基づくもので、将来の見通しは慎重なままです。
特にインフレや関税政策の影響が懸念材料として挙げられています。
近い将来の物価上昇を予想する心理が再び賃金要求を高め、スパイラルを強化する要因として働いてきそうです。

労働市場の変化
労働市場においては、11月の非農業部門の雇用者数が前月比22.7万人増加しましたが、失業率は4.1%から4.2%にわずかに上昇しました。
この失業率の上昇は、Fedが12月の会合で政策金利を0.25%引き下げる決定をする一因となる可能性があります。
また雇用増加が見られる一方で、労働力参加率の低下が経済全体の供給能力を制約するリスクもあります。
特にホリデーシーズンに小売業が雇用を控えたことは、消費者支出と雇用の相互作用において注目すべき動向です。
ちなみに全米リアルター協会(NAR)の2024年移住トレンドレポートでは、本年の引っ越しの主な理由として
「家族や友人との近接」
と
「住宅の手頃さ」
が挙げられています。
南部は移住先として最も人気があり、全体の46%が南部に移動しているのだとか。
リモートワークの普及により職場の所在地が移住動機としての重要性を失いつつあり、多くの人がより広い住宅や静かな環境を求めて移動しています。
これもまた、地域ごとの住宅需要と価格動向に影響を与える要因です。
こうした一連のデータを総合すると、賃金-物価スパイラルの発生が現在の経済における大きな課題となっていることが分かります。
特にサービス業を中心とした価格上昇の粘着性がインフレ期待を高め、スパイラルを加速させているのです。
このスパイラルを抑制するには中央銀行が適切な政策を講じる必要がありますが、利上げが経済成長を阻害するリスクもあり、それだけの12月の会合の結果に注目が集まるわけです。
そして一方で、労働市場や住宅市場における地域的な需要と供給の動向も、全体的な経済政策に影響を与える重要な要素です。
現状では、インフレ期待の固定化を防ぎながら、賃金と物価のバランスを取るための包括的なアプローチが必要とされる局面ではないでしょうか。
そうすると、不動産業界においても物価高の傾向はそのベクトルに大きな変化はなさそうです。
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