こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
持ち家が長寿に寄与する可能性についてはこれまでに多くの研究がなされてきましたが、その中でも特に興味深いのが、オックスフォード大学のケース・ブリーン博士による研究です。
ブリーン博士の研究では持ち家が個人の寿命にどのように影響を与えるかを明らかにするため、アメリカの20世紀初頭に生まれた男性を対象にした詳細な分析が行われました。
具体的には、1920年と1940年の国勢調査記録、さらに社会保障の死亡記録を用いて、黒人と白人の持ち家率の格差を調査し、その差が寿命にどのような影響を与えたのかを検証したようです。
研究結果はなんと、黒人男性の場合、持ち家は平均寿命を0.36年延ばし、白人男性では0.42年延ばす効果があるとのこと。
この差は社会的背景や経済状況の違いを考慮しても統計的に有意であることが確認されています。
特に兄弟間で持ち家の有無を比較するという方法が採用されており、個々の遺伝的要因や家族環境をコントロールした上での結果であることから、信頼性が高いというのです。
さらにこの研究では、持ち家が単なる経済的安定の指標以上の役割を果たしていることを示唆しています。
持ち家は心理的安定や社会的つながりを通じて、生活の質全般に影響を及ぼすとのこと。
特に経済的に不安定な環境に置かれている人々にとって、持ち家が重要な健康促進要因となることが強調されているのが興味深いところです。
世代間の定義的な違い
持ち家と長寿の関連性を考える上で、改めて世代間の持ち家率の違いを捉えてみましょう。
ミレニアル世代
ジェネレーションX
ベビーブーマー世代
サイレント世代
といった異なる世代がどのように持ち家に関わってきたのかを振り返ると、社会的および経済的な背景が大きく影響していることがわかります。
簡単に整理すると、サイレント世代(1928年–1945年生まれ)は、大恐慌や第二次世界大戦といった困難な時代を経験しながらも、戦後の経済成長を享受した世代です。
この世代の持ち家率は非常に高く、なんと55%が30歳時点で自宅を所有していました。
この背景には戦後の住宅政策や経済的安定が挙げられます。
持ち家が資産形成の中心であったこの時代の人々は社会的に安定した生活を送り、寿命にもその影響が現れたと考えられています。
その一方でミレニアル世代(1981年–1996年生まれ)は、住宅市場が過熱している時期に成人を迎えました。
2024年の分析によるとこの世代の持ち家率は33%にとどまり、サイレント世代の半分以下となっています。
これには学生ローンの負担増加、賃金の伸び悩み、そして住宅価格の高騰が影響していると考えられます。
ジェネレーションX(1965年–1980年生まれ)やベビーブーマー世代(1946年–1964年生まれ)と比較しても、持ち家率の低下は顕著です。
このように世代ごとの経済状況や社会政策が持ち家率に直接的な影響を与えており、それが長寿に関連する要因としても表れていると考えられます。
持ち家の有無が単に経済的な指標を超えて、健康や生活全般に及ぼす影響を考慮する必要があるわけです。
長寿と持ち家が関連する理由

そこで持ち家が長寿に寄与する理由は、主に以下の3つの観点から説明されています。
これらは相互に関連し合いながら、持ち家の健康促進効果をあらわすかのようです。
- 経済的安定の提供
持ち家は、アメリカで最も重要な資産形成手段とされています。
家を所有することで高額な家賃の支払いを回避できるだけでなく、住宅ローンの利子控除や資本利得税の非課税といった税制上のメリットを享受することができます。
また住宅は時間とともに価値が上昇する傾向があり、これにより資産の増加が期待されます。
さらに毎月の住宅ローン返済は、間接的に貯蓄を促進する効果があります。
- 住環境の改善
そして持ち家は、賃貸住宅に比べて住環境が良好である傾向があります。
特に20世紀初頭のアメリカの賃貸住宅は、過密状態、不衛生な環境、換気の不十分さといった問題を抱えており、これが結核やインフルエンザといった感染症の拡大を助長していたことが明らかにされています。
これに対し、持ち家は比較的衛生的で安全な環境であるため、慢性疾患や感染症のリスクを確かに低減するのです。
- 心理的安定と社会的つながり
また持ち家を所有することで、心理的な安定感が得られると言われています。
立ち退きのリスクが低いことや同じ地域に長期間住むことで得られる安定感は、メンタルヘルスに大きな影響を与えます。
また、持ち家所有者は地域社会とのつながりが強くなる傾向があります。
近隣住民との交流や地域イベントへの参加は社会的支援ネットワークの構築につながり、これが精神的および肉体的な健康を促進するというわけです。
これらの要因が組み合わさることで、持ち家は単なる住まいを超えて人生全般における健康と幸福に寄与する重要な要素です。
持ち家の普及が寿命格差の縮小に役立つという研究結果は、社会政策における持ち家支援の重要性を強調しており、特に経済的に恵まれない層やマイノリティへの持ち家機会の拡大は全体的な健康格差を是正する鍵となるようです。
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