こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
本年2024年にアメリカ不動産業界を賑わせた話題の一つは、間違いなく
「大型訴訟の和解」
でした。
詳細は過去記事に譲りますが、要するに一言でいえば
「住居物件の売買において、売主がリスティングエージェント(売主側)とバイヤーエージェント(買主側)双方の報酬を支払う商習慣が意図的に廃止された」
ことになります。
これに付随して
「買主とバイヤーエージェントは、より明確な雇用契約を交わさねばならない」
「最初の物件の内覧前には、雇用契約を交わさねばならない」
等の細かい和解条件もついてきました。
この大きな変化に伴って、アメリカ不動産協会は全州において対応を余儀なくされたのです。
厳密には本年8月から施行されていますが、今回の大型訴訟の結果に伴い、各州でも呼応した対応が出されています。
そこで本項では2025年に施行される新しいルールについて、そして全米規模の和解による業界の変化についてみていきましょう。
特にここではカリフォルニア州で不動産取引を行うライセンス保持者や、これから家を購入しようと考えている方々にとって有益になることと思います。
過去の商習慣に終止符
これまで、不動産売買では売主とその代理人が、売主代理人と買主代理人双方の手数料を設定するのが一般的でした。
買主や買主代理人がこのプロセスに関与することは少なく、売主側が提示する条件に従う形がほとんどだったのです。
けれども本年の全米規模の和解により、この慣習が大きく変わります。
この和解は、業界団体やMLS(複数物件情報サービス)、大手ブローカーに対する反トラスト法違反を主張する訴訟が契機となりました。
原告たちは
「被告(リアルター協会や大手不動産会社のこと)が競争を阻害する行為を行い、住宅価格や手数料を不当に引き上げていたと主張。
その結果として、売主とその代理人が買主代理人の報酬を決定するのではなく、買主が自らの代理人との間で報酬を交渉する仕組みが導入されたのです。
和解後、買主代理人は物件を見学する前に買主との間で正式な契約を締結し、その中で報酬についても合意する必要があります。
これにより、買主がどれだけの費用を支払う必要があるのかを明確に把握し、バイヤーエージェントもどのようなサービスを提供するべきかを具体的に理解できるようにはなります。
さらにこの契約に基づいて、バイヤーエージェントが受け取る報酬の上限額も決定されます。
ちなみに、今回の和解内容は交渉が苦手な人には今後の仕事や多少やりにくくなるのではないでしょうか。
バイヤーエージェントはこれまで買主と交渉することなく、単に物件紹介のみに集中すればよかったのです。
ところが今後は自分が仲介に入るにあたり、その報酬の交渉を買主とする必要が出てきました。
気の弱いバイヤーエージェントの場合、ついつい低い手数料で請け負ってしまうのではないでしょうか。
カリフォルニア州の場合
この流れを受けて、カリフォルニア州議会は2024年9月にAB 2992を可決しました。
この法律は2025年1月1日から施行され、バイヤーエージェントは可能な限り早く、遅くとも購入申し込み前に買主と契約を締結することが義務付けられます。
ここがポイントですが、全米規模のルールでは
「最初の物件を内覧する前に雇用契約を」
とされているのが、カリフォルニア州の場合は
「遅くとも購入申し込み前(すなわちオファーしない限り、雇用契約は交わさなくてよい)」
と決まりました。
連邦制を敷いているアメリカ合衆国の場合、強いのは州法ですから、カリフォルニア州のバイヤーエージェントは後者の方法でよいことになります。
そしてこの契約には、報酬、提供されるサービス内容、報酬が支払われるタイミング、契約の有効期限(最長3か月)が含まれる必要があります。
また買主は、バイヤーエージェントへの報酬を支払う方法についていくつかの選択肢があります。
1.自己負担で支払う
2.売主に対して報酬の一部または全額を購入価格の一部として負担するよう交渉する
3.売主がこれを拒否した場合、買主は自己負担で支払う義務を負う
のいずれかです。

仮に報酬が高額であり、売主との間で購入条件の合意が得られない場合、買主はその物件の購入を見送り、別の物件を探すことも選択肢として残されることになります。
この新しい仕組みにより透明性が向上し、買主と買主代理人との関係がより明確になりそうです。
けれどもそれと同時に、不動産ライセンス保持者はいくつかの注意しておかねばなりません。
それは
1.すべての合意は書面で行う必要があり、口頭での変更や非公式な方法で条件を変更することは法的効力を持たない
2.報酬については買主に明確に説明し、誤解を避ける
3.手数料率に関しては「標準的な」率があると誤解させてはいけない
4.報酬は完全に交渉可能であることを説明し、透明性を保つ必要がある
といった点です。
さらに売主と買主の双方の仲介に入る場合、売主と買主の双方に書面で開示し、それぞれの利益を守ることが求められます。
また買主に対して契約への過剰な圧力をかけることなく、十分な時間を与えて内容を理解させることも必要です。
そうすると、一部のバイヤーエージェントは個別のサービスごとに料金を設定することを選ぶかもしれません。
例えば
- 物件案内や契約書の作成
- 物件調査手配の手数料
など、個別に料金を請求する形です。
この場合はサービス提供後に料金を徴収するのが基本ですが、前金を請求する場合は、DRE(カリフォルニア州不動産協会)の承認を受ける必要があります。
。。。
かくして、2025年以降の不動産取引では買主とバイヤーエージェントとの間で交わされる契約がますます重要になります。
透明性を確保し、すべての関係者が納得のいく形で取引を進めることが求められることになるわけで、これから物件を購入する方々はこのあたりの新しいルールをよく理解しておいた方がよさそうです。
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