昨年以来、米ドルで資産運用を志す方々からのコンサルティング依頼が急増しています。
弊社ではアメリカ不動産コンサルティングに加え、州規制当局に登録されるRegistered Investment Advisor (RIA)としてアメリカ国内での資産運用全般のコンサルティングも提供しており、内容は不動産投資以外となりますが、初心者の方々からのご質問を総括する意図で株や債券に関するまとめ記事を1月7日から期間限定であげさせて頂きます。
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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
少子高齢化が進むアメリカ社会において、Empty nesters(エンプティ ネスターズ)と呼ばれる高齢世帯が所有する住宅が増加しています。
Empty nesters(エンプティ ネスターズ)の増加は住宅不足問題の解消につながる可能性があると一部で期待されています。
けれども現実には簡単にそうはいかない、との指摘もあるのがEmpty nesters(エンプティ ネスターズ)の増加です。
本項ではアメリカの高齢世帯が住宅市場に与える影響を鑑みると同時に、解決策として提案される新築住宅建設の課題についても見ていきましょう。
Empty nesters(エンプティ ネスターズ)とは
まず、Empty nesters(エンプティ ネスターズ)の定義について確認しましょう。
Zillowの研究によると
「55歳以上の住人で10年以上同じ家に住み、子供が家を離れ、2部屋以上の空き部屋を持つ世帯」
のことをEmpty nesters(エンプティ ネスターズ)と呼びます。
2022年時点で、全米で約2090万世帯がこの定義に当てはまるのだとか。
Empty nesters(エンプティ ネスターズ)が発生する背景には、社会的、経済的、そして文化的な要因が複雑に絡み合っているといわれます。
主に高齢化や家族構成の変化によって引き起こされ、現代社会の特徴的な問題として広く認識されつつある課題です。
最初に、少子高齢化がEmpty nesters(エンプティ ネスターズ)を生む大きな要因の一つです。
アメリカを含む先進国では出生率の低下と平均寿命の延伸により、高齢者が占める人口割合が増加しています。
この結果多くの家庭では子供たちが成長して独立する一方で、親世代が長期間同じ家に住み続ける傾向が見られます。
特に子供たちが大学進学や就職を機に実家を離れることで家族構成に変化が生じ、親世代が物理的にも精神的にも空間的な空白を感じるようになります。
そして経済的要因もEmpty nesters(エンプティ ネスターズ)の発生に影響を与えています。
アメリカでは郊外型の住宅開発が進み、広い敷地や複数の部屋を備えた住宅が中流階級を中心に普及しました。
こうした住宅は子育て世代にとっては理想的だったものが、子供が独立した後はその広さが過剰となり、親世代が「余剰な空間」を抱える状況を作り出されたわけです。
けれども高齢者がこうした住宅を手放し、よりコンパクトな住宅に移ることを妨げる要因も存在します。
たとえば長年住み慣れた場所から離れることへの心理的抵抗や、地域の不動産市場の状況が引っ越し阻害の要因になっているのです。
また文化的背景による変化もあります。
かつては三世代同居が一般的だった時代もあったものが、核家族化が進む現代では子供たちが親と離れて独立生活を送ることが標準的なライフスタイルとなっています。
また職場の都市集中化が進む中で若年世代がキャリアを求めて都市部に移動する一方、親世代は郊外や地方の住宅に残る傾向があります。
この地理的な分断がEmpty nesters(エンプティ ネスターズ)を一層顕著にする要因にもなっているのです。
加えて、技術の進歩も影響を与えています。
かつては家族が同じ空間で時間を共有することが日常的でしたが、スマートフォンやインターネットの普及により、物理的な距離を超えたコミュニケーションができるようになりました。
結果として、かろうじて家族間のつながりは維持されるものの、同居の必要性が薄れて親世代が空間的な孤独を感じやすくなるという側面もあります(このことはアメリカのみならず世界的な現象)。
かくして、Empty nesters(エンプティ ネスターズ)の発生には
- 人口動態
- 経済的背景
- 文化的変化
- 技術的進歩
が影響しているのです。
![](https://wedgerc.com/wp-content/uploads/2024/12/empty_nesters.jpg)
住宅不足解消への期待
これらの膨大な数の住宅が市場に流通すれば、住宅不足の解消につながると期待されます。
一方で、この期待にはいくつかの問題が伴うとの指摘が。
第一に、これらの住宅が立地する地域が若年世代のニーズと一致しない点です。
例えば、Empty nesters(エンプティ ネスターズ)の家庭は比較的手頃な価格の市場に集中しており、具体的には
ピッツバーグ(ペンシルベニア州)
バッファロー(ニューヨーク州)
クリーブランド(オハイオ州)
などが挙げられます。
一方、若年層が最も多い都市は
サンノゼ(カリフォルニア州)
オースティン(テキサス州)
デンバー(コロラド州)
といった高コスト地域です。
この地理的なミスマッチが、住宅不足解消の妨げとなっています。
それから、Empty nesters(エンプティ ネスターズ)世帯が手放す住宅の特性も問題です。
これらの住宅は広い敷地や高価格帯の物件が多く、若年世代が求める手頃で利便性の高い住宅とは必ずしも一致しません。
結果として空き家が増えても、若年層の需要を満たすことが難しいと予想されるのです。
そこで新築住宅建設が解決策として挙げられる理由について考えてみます。
Zillowのエコノミストによると、新築住宅こそが「住宅の手頃さを改善する唯一の実現可能な解決策」なのだとか。
けれども新築住宅建設にも数々の課題が存在します。
誰もが知るように建築資材の高騰や土地規模の要件、密度制限、さらには24カ月以上かかるプロジェクト審査が新築物件の障害となっています。
これらの要因は供給を需要に追いつかせることを妨げ、価格の高騰と手頃さの悪化を招くのです。
これらの課題に対処するには、規制緩和や建築許可の承認プロセスの簡略化が論を待たないところ。
例えば、南部の州では規制が少ないことから建築業者が密度を高める形で建設を進め、購入者が求める価格帯を実現しています。
これらの事例は、住宅市場の問題解決に向けた一つの方向性といえるのかもしれません。
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かくして、Empty nesters(エンプティ ネスターズ)の件で見えてくるのは、住宅市場の構造的な問題が単一の解決策では対応しきれないという現実です。
Empty nesters(エンプティ ネスターズ)世帯が所有する住宅が市場に流入したとしても、それが若年層の需要に応える形で効果を発揮するには地理的・経済的なギャップを埋める工夫が必要となります。
新築住宅の建設においても、規制やコスト面での障害をクリアするための政策的支援が欠かせません。
とどのつまり、住宅不足問題に対する解決策は多様な要因を考慮した包括的なアプローチが必要なのです。
Empty nesters(エンプティ ネスターズ)による住宅供給の増加を有効活用するためには、地域間の需要調整や新築住宅建設を促進する政策が重要な鍵となりそうです。
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