こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
今日は米国の不動産市場、それもシングルファミリー(戸建て)住宅にフォーカスしてみましょう。
ここ数ヶ月、住宅市場は低金利時代と比べると厳しい状況が続いていますが、さらに今回、住宅建設業者の「センチメント(景況感)」が5か月ぶりに最低水準に落ち込んだというニュースが飛び込んできました。
背景に関する理解を深め、ここからの予想される動きを俯瞰してみましょう。
今回の住宅建設業者のセンチメント低下には、「タリフ(関税)」が大きく関わっています。
トランプ大統領(当時)によるカナダ・メキシコへの関税強化が延期されたとはいえ、いずれ発動される見込み。
これが何を意味するかというと、建築コストの上昇です。
- 木材(ソフトウッドランバー): 輸入の約30%が海外依存
- 家電(アプライアンス): およそ32%が海外依存
これらのコストが上がると当然住宅の販売価格にも跳ね返り、さらに買い手の負担が増える結果に。
すでに高金利や高価格に苦しむ状況に、さらにコストアップの不安が上乗せされる形です。
そこで、全米住宅建設業者協会(NAHB)が発表する住宅市場指数(HMI)は今回42まで落ち込みました。
この指数は50を境に上下で「景況感が良いか悪いか」を示していますが、今回の42という数値は5か月ぶりの低水準です。
ちなみに2024年2月時点では48でしたので、かなり大きな下振れといえます。
3つの主要コンポーネントが軒並み下落
- 現在の販売状況: 46(前月比-4)
- 購買者交通量(モデルハウスへの来場など): 29(前月比-3)
- 今後6か月の販売期待値: 46(前月比-13)
特に「今後6か月の販売期待値」の急落(-13ポイント)はインパクトが大きく、2023年12月以来の低水準。
春から初夏にかけて、住宅市場は本来なら「繁忙期」ですが、このタイミングでの期待値ダウンは業界内でも大きな不安要素となっています。
さらに今、住宅購入を難しくしているのが高金利です。
30年固定金利は1月・2月にかけて7%前後まで上昇。
わずか数年前の3~4%台から比べると、購入者の支払い負担は大幅増です。
加えて、ここ1年ほどでアメリカの中古住宅価格も下がりきっていない状況が続いています。
建て替えや新築を検討していた潜在的な買い手が、「高い金利×高い物件価格」の組み合わせで手を出しにくいという声も少なくありません。
価格引き下げやインセンティブの現状
それでも売りたい住宅会社としては、下記のような対策を打つのが普通です。
- 値下げ
- ローン金利優遇(一部を負担)
- 付帯設備(家電)のサービス
けれどもNAHBの調査によれば、「2月の値下げ割合は26%」と、1月の30%より減少傾向。
この理由としては「そもそも値下げやサービスをつけても、買えない人は買えない」という需要減の現状があるからだと考えられます。
インセンティブをつけても効果が薄れ、企業側にとってメリットが小さくなっているわけです。
そして何よりも大きな問題は、市場の在庫が潤沢ではない中でも「買い手側のマインドが冷え込んでいる」こと。
- タリフの影響が本格化し、建築コストがさらに上がれば、販売価格を下げる余裕が失われる。
- 金利の行方もまだ不透明。FRBが利下げに動く兆しは現時点では見えておらず、7%近い金利が続く可能性もある。
- 住宅建設業者の販売意欲低下 → 新規着工が抑制されれば、供給不足を助長し、高価格維持に拍車がかかる。
こうした懸念材料がまだまだ残るため、「春の住宅市場が大きく盛り上がる」とは言い難い状況かもしれません。
。。。
かくして、住宅建設業界はコロナ後の旺盛な需要を経て一時期上向きでしたが、金利上昇と不安定な貿易政策(タリフ)がじわじわと効いてきています。
とはいえ、住宅がまったく売れなくなるわけではありません。
- 在庫の少なさ → 中古・新築問わず、まだまだ供給不足は根強い
- 長期的な米国の人口動態 → 世代交代による住宅ニーズは継続
短期的には厳しい指標が目立ちますが、これから家を探す人にとっては値引き交渉や諸費用のサービスなど思わぬチャンスが巡ってくる可能性もあります。
住宅マーケットの動きは、金利や経済政策とも密接に連動します。
今後もニュースや統計を見ながら、市場を観察し続けていきましょう。
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