こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
デンバーで注目されている「ゴーストタックス(Ghost Tax)」の議論。
これは今の全米の住宅問題を象徴するテーマです。
現在デンバーにはおよそ27,000戸もの空きアパートが存在している一方で、10,000人以上の人々がホームレス状態にあるといわれています。
供給があるのに利用されない住居と、住む場所を失った人々。
このアンバランスをどう解消するのかが、デンバーの喫緊の課題です。
ゴーストタックスとは一定期間以上空室のまま放置された住宅に課税する仕組みですが、多くの場合6か月以上借り手が見つからない場合に課税対象となり、オーナーは賃料を下げるか、市場に出すか、あるいは税金を支払わなければなりません。
つまり空き家を「遊ばせておく」こと自体にコストを発生させ、住宅供給を促すと同時に、集めた税収を低所得者向けの住宅政策に充てる狙いがあります。
この議論が熱を帯びる背景には、コロラド州が全米の住宅費負担度ランキングで27位にとどまっている現実があります。
新築供給も思うように進まず、2025年第2四半期に許可された5戸以上の集合住宅はわずか2,706件。
需要と供給のギャップが埋まらない中で、「既存ストックを有効活用するしかない」という声が強まっているわけです。
けれども当然ながら、反対意見も根強いものがあります。
「高い空室率の方が借り手にとって有利だが、空室への課税と強制的な供給は逆効果になる」
つまりオーナーへの負担は結局家賃に転嫁され、借り手に跳ね返るという論理です。
「ゴマの価格に税金をかければ、ハンバーガーの値段も上がる」という比喩と同じですが、実際、他都市の事例を見ても成果はまちまちです。
オークランドでは年間6,000ドルの空き家税を導入しましたが、サンフランシスコでは憲法違反と判断されて頓挫しました。
サウスレイクタホでは住民投票で否決され、ハワイ・ホノルルは試行錯誤の最中です。
つまり、この政策はまだアメリカ国内で「実験段階」にあるといえます。
ただ注目すべきは、そのインパクトの大きさです。
もしデンバーで27,000戸に対して一律課税が実施されれば、数千万ドル規模の新たな財源が生まれます。
これを使って建設補助や家賃補助に回すことができれば、一定の効果は期待できます。
けれども同時に規模の小さい個人オーナーまで巻き込んでしまうと、逆に貸し渋りや家賃上昇を招くリスクも否定できません。
このことを不動産投資の視点からみれば、この政策は「市場における空室戦略」を変える可能性があります。
例えば高めの賃料設定で様子を見る戦略が取りにくくなり、早期に値下げしてでも入居者を確保する動きが増えるかもしれません。
その一方で大手法人オーナーは税金をコストとして処理できても、小規模大家は打撃が大きくなるため、物件売却に動く可能性もあります。
かくして、デンバーの住宅市場は「空き家を放置させない」という方向にシフトする可能性があります。
最終的に勝者となるのは、市場に柔軟に対応できるオーナーと、政策によって新たに住宅支援を受けられる低所得層かもしれません。
けれども失敗すれば逆に市場の歪みを拡大し、家賃高騰や供給停滞を招く恐れがあります。
デンバーの「ゴーストタックス」は、単なる地域政策にとどまらず、全米の都市が直面する住宅問題に対する実験的解決策として今後の展開が注目されます。
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