こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
カリフォルニア州のマリブと聞けば、多くの人が思い浮かべるのは「海辺の豪邸」や「セレブの街」というイメージではないでしょうか。
今、そのマリブが大きな転換点に立たされています。
2024年初頭のパリセーズ火災から一年が経ち、街の風景はまだ焼け跡のまま。
再建の許可がほとんど進まず、住民の多くが希望を失い、土地を手放し始めています。
その一方で、海外の投資家たちが次々とその「焼け跡の土地」を買い漁っているのです。
マリブの停滞
火災で約720軒の家が焼失したマリブ。
ロサンゼルス市が管轄するパシフィック・パリセーズでは、すでに800件を超える再建許可が下りています。
それに対して、マリブで発行された再建許可はわずか4件。
これは申請の約2%にしかすぎません。
元々「スローグロース(成長を抑える)」を掲げてきたマリブ市ですが、今回はその政策が裏目に出ています。
手続きが複雑で、書類の不備があればすぐに差し戻される。
それに加えてFEMA(連邦緊急事態管理庁)による新たな耐水・高床基準が設けられ、多くの再建計画が中断しています。
「隣町の友人はもう基礎工事を始めているのに、自分の申請はまだ承認されていない」
そんな状況が多々発生しているわけです。
再建どころか、許可を取るまでに1年以上。
そんな状況では、「家を建てる」より「売る」ほうが現実的と考える人が増えるのも当然です。
下落する土地価格
マリブは全米でも有数の高級住宅地。
けれどもいま売りに出ている焼け跡の土地は、かつての価格から20〜60%も値下がりしています。
たとえばオーシャンフロントの土地が300万ドルで出されたものの、半年後には195万ドルへ。
3,500万ドルの大邸宅跡地も、今では1,200万ドルまで下がっています。
市場には売り物件が溢れ、買い手は少ない。
それでも、海外の富裕層は「将来の値上がり」を見越して動き始めています。
ニュージーランドの兄弟が今年だけで6,500万ドル分の焼け跡を購入。
カナダの開発会社、マイアミのヘッジファンド、アジアの投資家も続々と参入しています。
「時間を味方につけられる3年、5年、10年と待てる人が買っていく。すぐ建てたい人にはマリブは向かない。」
という状況が生まれているわけです。
再建を阻む規制の壁
再建の遅れの背景には、マリブ特有の地形があります。
海に面した崖、急斜面、地盤の脆さ。
半数以上の住宅が海沿い、さらに3割が傾斜地にあり、地盤改良や排水システムが不可欠です。
市が新たに導入した「現地排水処理システム(OWTS)」の設置は、数十万ドル単位の費用がかかります。
建物の基礎には深さ6階分の杭(ケーソン)を求められ、海岸線では防波堤の設計も厳格です。
マリブ市は「複雑な地形に対応するためには必要な措置」と説明しますが、その現実的コストは住民にとってあまりにも重い負担です。
再建センターの奮闘
今年3月に開設された「マリブ・リビルドセンター」は、申請者の支援を目的とした窓口です。
担当窓口によると、被災した720世帯のうち585世帯が相談に訪れたとのこと。
申請手続きも12ステップから6ステップに簡略化され、テンプレートの導入など改善策が進んでいます。
けれども、それでも「建築許可」はまだ4件。
書類が通っても、次に待つのは「安全・構造審査」という長い審査過程です。
見た目の数字以上にプロセスが複雑化しており、再建が進まない現状は変わっていません。
変わりゆくマリブの姿
このまま再建が遅れれば、マリブの街の顔は変わっていくことは必至です。
長年住み続けた住民が去り、代わりに現れるのは投資ファンドや短期レンタル業者。
「昔のようにバーの店主が常連客を覚えているような街ではなくなるかもしれない」
と嘆く声もある一方で、
「誰が買うかは問題ではない」
「この街の未来を信じ、投資してくれるなら、それが地元の人でも海外の人でも構わない。」
と語る地元人もいます。
実際、土地を手放す側は生活の再建が最優先ですから、買い手が海外投資家であろうと現金で購入しすぐに動ける相手なら歓迎というのが現実です。
。。。
かくして、マリブはいま「再建か、売却か」という二つの選択肢の狭間で揺れています。
火災の痛みを乗り越えかつての街並みを取り戻すには、行政のスピードアップが不可欠。
けれどもこの遅れが続くなら、数年後に再び立ち上がるマリブはもはや昔のマリブではないかもしれません。
多くの人がこの地の未来に投資するのは、「マリブ」という名前に込められた永遠の憧れが消えないからです。
マリブは今、再建を待つ住民と新たにやってくる投資家たちの狭間にあります。
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