こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
先週の米国の経済ニュースではインフレの落ち着き、失業者数の増加、住宅保険の高騰等、複雑に絡み合う要素の中で先行きは不透明ながらも「ゆるやかな改善」を報道する傾向が多く見られました。
実際とのころ、経営者たちの景況感はやや後退し、一般家庭では保険料負担が家計を圧迫しはじめています。
けれどもAIによる変革の波やインフレ鈍化の兆しが、長いトンネルの先に明かりをもたらしているようにも見えます。
詳細を見ていきましょう。
9月の消費者物価指数
まず注目すべきは、シャットダウンにより発表が遅れていた9月の消費者物価指数(CPI)です。
結果は市場予想を下回る0.31%の月次上昇、前年比では3%の上昇にとどまりました。
ガソリン価格の4%上昇が全体を押し上げたものの、食料品の価格上昇が落ち着いたため、全体のインフレ率は抑えられた形です。
コアCPI(食料とエネルギーを除く)は月次0.2%、前年比3%の上昇で、これも予想を下回りました。
特に注目すべきは住宅費用の伸びがわずか0.2%に鈍化した点で、前年同月比でも3.6%の上昇にとどまっています。
中古車価格は前月比0.4%下落しましたが、前年よりは依然として5.1%高い水準です。
インフレは依然として存在しますが、想定より穏やかなペースでの上昇にとどまっているため、FRB(連邦準備制度理事会)は次回会合で0.25ポイントの利下げに踏み切るとの見方が強まっています。
ただし政府機関の一部閉鎖が続く中で、次のデータ更新は12月まで遅れる見通しです。
その一方で、経営者マインドにも変化が見られます。
全米経済団体「カンファレンス・ボード」が公表したCEO信頼感指数は第4四半期に48と、前期の49からわずかに低下。
37%のCEOが「半年前より経済状況は悪化した」と回答しており、悲観的な見方がやや強まっています。
それでも景気後退(リセッション)を予想するCEOはわずか4%にとどまり、「緩やかな減速」を想定する声が64%を占めています。
雇用削減を予定している企業の割合も34%から29%へと減少しており、人員の維持姿勢がうかがえます(ただしアマゾンは大型の雇用削減を発表したばかり)。
さらに興味深いのは、81%のCEOが「AIが今後5年で社内の50%以上の職務を変革する」と考えている点です。
景気に対する慎重姿勢と同時に、AI技術への大きな期待が共存しているということです。
住宅保険
住宅保険の問題になると、近年の自然災害や火災の頻発により、アメリカでは多くの住宅所有者が「自分は保険で十分に守られていない」と感じているようです。
とある調査によると、18%の住宅所有者が
「保険の補償額が住宅の再建に十分でない」
と回答しているとのこと。
さらに驚くべきことに38%の人が
「自分の保険が十分かどうか分からない」
と答えています。
保険料を下げるために自己負担額(免責額)を上げる人が22%、保険会社を変えた人が17%いましたが、全体の4分の1は何の対策も取っていません。
仮に今日、自宅が大きな損害を受けた場合に59%の人が「5,000ドル以上の免責額を支払う余裕がない」とも回答しています。
こうした保険料の上昇が住宅市場にも波及し、約3割の住宅所有者が「新しい家を買わない」と答えるなど、住宅需要の重しになっています。
けれども一方で、住宅を売る側には明るいニュースもあります。
調査によると、不動産エージェントを通じて売却した売り手の86%が「満足している」と回答しているとのこと。
興味深いのは、自力で売却した人の満足度は71%にとどまっています。
またエージェントを利用した売却の平均利益は138,477ドルで、非エージェント売却より約6,000ドル多い結果です。
プロのサポートを受けた売主の85%が「利益に満足」と答えたのに対し、自己売却の場合は75%。
「労力のわりに利が少なく、やはり(エージェントに)頼んでおけばよかった」
と後悔する非エージェント売主も36%に上りました。
信頼度においてもREALTOR®が87%と圧倒的で、現金買い取り業者の40%を大きく上回っています。
デジタルツールが発達した現代でも、専門家の価値は依然として高いことが証明された形です。
雇用市場
政府閉鎖の影響で一部州(テネシー、マサチューセッツ、コロラド)からのデータが欠けているにもかかわらず、失業保険申請件数は増加傾向にあります。
10月第3週の新規申請件数は23.2万件に達し、継続受給者数も194万2千件に増加しました。
年末商戦を控えた時期にしては雇用の勢いが弱く、企業の採用控えが続いているとみられます。
。。。
こうして見ると、アメリカ経済は「停滞と希望のはざま」にあるように見えます。
インフレは落ち着きつつあり、AIによる効率化が期待される一方で、生活コストや雇用の不安は依然として残る状態。
けれども変化の速度が緩やかな今こそ、消費者も企業も冷静に戦略を立てる時期なのかもしれません。
この秋のアメリカ経済は「慎重な楽観」の中で新たな局面を迎えているように思います。
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