こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
モノポリーというボードゲームを知らない人は少ないと思いますが、今のアメリカの住宅市場を見ていると、このゲームがまるで現実を映しているように感じることがあります。
サイコロを振って土地を買い、家を建て、他のプレイヤーから家賃を取る。
最後に勝つのは、誰よりも早く土地を独占した人。
そんな単純なルールのはずが、実はこのゲーム、もともとは「土地の独占がもたらす社会的な不平等」を学ぶために作られたものでした。
その原点をたどりながら、現代の不動産市場と重ねて見ていくと、少し考えさせられることがあります。
モノポリーの舞台となっているのは、ニュージャージー州アトランティックシティです。
ここはかつては「アメリカの遊び場」と呼ばれ、カジノとビーチで栄えた観光都市でした。
ゲームに登場するボードウォークやバルティックアベニューといった地名は、実際にこの街に存在する通り名です。
けれども2025年の現実では様相が違います。
リスティングデータによると、アトランティックシティの住宅の中央値はおよそ$229,900。
ビーチ沿いの家でも$300,000以下で手に入ることが珍しくない、全米でも数少ない「手が届く海辺の街」になっています。
そしてモノポリーで最安の土地「Mediterranean Avenue」は、ゲーム上ではたった$60で買える設定ですが、現実の相場は$172,000前後。
つまり、約16万倍に値上がりしているという計算になります。
興味深いのは、ボード上の地名をたどると、アトランティックシティの実際の不動産分布が見えてくることです。
オレンジ色の「St. James Place」「Tennessee Avenue」「New York Avenue」は、どれも中心部にあり、相場は$180,000前後。
一方、紫や茶色のエリアは比較的安価で、北側や西側の住宅街に集中しています。
そして「Boardwalk」や「Park Place」は、今も昔もやはり特別な場所。
海沿いの高級物件が並び、ペントハウスは$2,000,000を超えるものもあります。
それでも、ボードウォーク沿いの住宅の中央値は$450,000程度で、ロサンゼルスやニューヨークと比べると、まだまだ現実的な価格帯です。
モノポリーにみえるメッセージ
モノポリーの起源をたどると、その裏には深い社会的メッセージがあります。
1904年、エリザベス・マギーという女性が作った「The Landlord’s Game(地主のゲーム)」が原型です。
彼女は土地を独占する資本家が社会に与える悪影響を風刺し、土地ではなく土地の価値そのものに課税すべきだと訴えました。
これは、経済学者ヘンリー・ジョージが唱えた「地価税(Land Value Tax)」の思想に基づいています。
けれどもその思想はのちに商業化され、「モノポリー」というエンターテインメントへと姿を変えました。
土地を独占し、他者を破産させることが「勝利」とされるゲーム。
まさに、当初の教訓とは正反対の方向に進んだのです。
そしてその皮肉こそが、今の住宅市場を象徴しています。
かつての郊外開発ブーム、安価な土地と車社会が生んだ「第二のフロンティア」は、すでに終わりました。
今やすべての土地が「他のプレイヤーに取られている」状態。
若者たちはゲームの途中から参加してもすでにボードがいっぱいで、動く場所がないような感覚に陥っています。
特に若年層や初めて家を買う層にとってローン金利7%という現実は、サイコロを振る前にゲームから締め出されるようなものです。
一方で過去に低金利で購入した世代は資産を抱えたまま動かず、供給不足をさらに悪化させています。
モノポリーが示す勝ち筋
とはいえ、モノポリーが示した「勝てる戦略」には今も学ぶ価値があります。
それは派手な場所よりも安定した収益が見込める「オレンジ色のマス」を狙うこと。
現実の世界でいえば、価格が手ごろで人口流入が続く中西部の都市やサンベルト地帯の一部が、いわば今日のオレンジゾーンです。
地価はほどほど、賃貸需要は堅調、そして投資家もまだ過熱していない。
そうした市場こそ、長期的に見ると「勝ちやすい場所」と言えます。
もっぱら、現実の世界では家は単なる戦略のコマではありません。
誰かが住み、暮らし、地域が成り立つ場所であり、モノポリーのルールのように「他人を破産させて勝つ」構造のままではいずれ誰も遊べなくなります。
そう考えると人々は一度、エリザベス・マギーの原点に立ち返るべきなのかもしれません。
土地をどう所有し、どう活かすのか。
それは単に「資産運用」の問題ではなく、社会構造そのものを左右するテーマになりつつあります。
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