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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
アメリカの不動産市場にとって、3月は「春の号砲」が鳴るはずの月です。
けれども今年は、どうやらその号砲の音が、ずいぶん遠くで鳴っているように聞こえます。
全米リアルター協会(NAR)が4月中旬に発表した最新のExisting-Home Sales(既存住宅販売)の数字が、そのことを静かに物語っています。
鍵となる数字は、「398万戸(年率換算)」です。
9ヶ月ぶりの低水準という「季節外れの寒さ」
3月の既存住宅販売は、前月比3.6%減の年率換算398万戸と、直近9ヶ月で最も低い水準まで落ち込みました。
ご多分に漏れず、3月は例年ならリスティング(売出し物件)が一斉に動き出し、契約も積み上がっていく時期です。
けれども今年の3月は、数字の上でも現場の肌感覚でも「春らしい勢い」が感じられません。
中古住宅の中央価格(Median Sales Price)は40万8,800ドルと前年比ではわずかに上昇しているものの、価格の鈍化と取引量の減少が同時に進んでいる格好です。
「買い手」が動かない三つの理由
NARのチーフエコノミスト、Lawrence Yun(ローレンス・ユン)氏は、今回のレポートの中で静かにこう述べています。
「消費者信頼感の低下と、雇用の伸びの鈍化が、買い手を引き留め続けている(Lower consumer confidence and softer job growth continue to hold back buyers)」
つまり「家を買わない」のは、金利や価格の問題だけではないということです。
まず、モーゲージ金利は直近で6%台前半まで下がる場面もありましたが、6%を明確に切ってこない限り、月々の返済額は家計の限界線を超えたままです。
そして、雇用統計や消費者信頼感といった「将来への安心感」を測る指標が、ここに来て弱含みに転じています。
加えて、関税や経済政策をめぐる先行き不透明感が、「いま動くか、もう少し様子を見るか」の秤を、慎重な側に静かに傾けています。
興味深いのは、Yun氏が同じレポートの中で、こうも語っていることです。
「あと30万戸から50万戸、売出し物件が増えれば、市場はより正常な状態に近づくだろう」
表面だけ見ると、これは少し奇妙に聞こえるかもしれません。
別の調査では、アメリカ全体で売り手が買い手を約63万人上回る「記録的な過剰供給」が指摘されているからです。
けれども、この二つは矛盾しているわけではありません。
いま「動いている売り手」は増えているけれども、総在庫(Inventory)そのものは、人口や世帯の増え方に対して依然として細いままであるということなのです。
言い換えれば、短期的には買い手市場(Buyer's Market)の色が強まる一方で、中長期の構造は売り手有利のまま、という二重構造が今のアメリカ住宅市場には横たわっています。
外側からアメリカ不動産を眺めていると、つい「今は買いか、売りか」という二択で市場を語りたくなります。
けれども「398万戸」という数字は、その単純な二項対立にそっと待ったをかけているようにも見えます。
取引量が細っている春は、裏を返せば、交渉の余地が広がっている春でもあります。
リスティングが長く残っている物件、売り手が価格を少し下げ始めた物件、そういうところに目を凝らすと、数字の平均では見えない「この春だけの景色」が浮かび上がってくるのです。
とどのつまり、春の冷たさは一時的な天気のようなもので、住宅市場の土壌そのものが枯れているわけではありません。
「3.98」という数字を手元に置きながら、次に続く4月、5月の数字を丁寧に追いかけていきましょう。
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