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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
相場の話になると、多くの方がまず「価格は上がっていますか、下がっていますか」と尋ねられます。
もちろん価格は大切な指標です。
けれども価格はいわば熱が出きったあとに測る体温のようなもので、相場の向きが変わったことを少し遅れて教えてくれる数字でもあります。
もっと早く、静かに相場の温度を映してくれる指標があります。
それが今日お話しする「在庫月数(Months of Supply)」です。
聞き慣れない言葉かもしれませんので、まずは中身からほどいていきましょう。
在庫月数とは、
「いま売りに出ている家が、このままの売れ行きで全部はけるのに何ヶ月かかるか」
を表した数字です。
計算そのものはいたって素朴で、売りに出ている物件の総数をひと月あたりの成約件数で割るだけです。
市場に出ている家が多くても売れ行きが速ければ在庫月数は短く、逆に物件が少なくても買い手の動きが鈍ければ長くなります。
つまりこの数字は、売り手と買い手のどちらに力が傾いているかを一目で映す、相場の天秤のようなものなのです。
では、その天秤はどこで釣り合うのでしょうか。
アメリカの市場では、ご多分に漏れず一つの目安が長く語り継がれてきました。
およそ五〜六ヶ月分の在庫があるとき、売り手と買い手の力がほぼ均衡しているとされます。
これより在庫月数が短ければ、家が足りず買い手が競い合う「売り手市場(Seller’s Market)」。
逆に長くなれば、家が余り買い手が選べる「買い手市場(Buyer’s Market)」へと傾いていきます。
この物差しを手にして、いまのアメリカを眺めてみましょう。
全米リアルター協会(NAR)が発表した2026年5月の数字では、売りに出ている既存住宅はおよそ百五十五万戸、在庫月数は4.5ヶ月分でした。
五〜六ヶ月の均衡点には、まだ少しだけ届いていません。
けれどもコロナ禍のさなかに二ヶ月分を切るほど在庫が枯れ、売り手が圧倒的に強かったあの頃と比べれば、天秤はずいぶん中央へ戻ってきたと言えます。
そして、この「四・五ヶ月」という数字の手前で、もう一つの変化が静かに起きています。
同じ五月の集計で、初めて家を買う人(First-Time Buyer)の割合35%まで上がり、2020年6月以来の高さになりました。
一年前は30%でしたから、5ポイントの上昇です。
在庫がじわりと増え、選べる家が戻ってきたことで、これまで競争に押し負けて待たされてきた層が、ようやく市場に戻り始めた。
在庫月数という天秤の傾きが、買い手の顔ぶれまで変えていく。
そういう連動が、数字の裏側で起きているわけです。
ここで一つ、心に留めておきたいことがあります。
在庫月数は全米をひとまとめにした平均値であって、相場の天秤は地域ごとに、同じ街の中でも価格帯ごとに、まったく違う傾き方をします。
四・五ヶ月という全国平均の裏では、人気の学区で二ヶ月分を切って買い手が殺到している一角もあれば、郊外の高額帯で八ヶ月分を超え売り手が値下げを迫られている一角もあります。
同じ「四・五ヶ月」という言葉の下に、まるで季節の違う市場がいくつも同居しているのです。
結果として、気になるエリアがあるなら全国ニュースの数字でわかった気になるのではなく、そのエリアだけの在庫月数を確かめてみることをお勧めします。
とどのつまり、価格が「いくらか」を見るのと同じくらい在庫月数が「あと何ヶ月分か」を見ること。
この二つを並べて眺めると、相場の温度はぐっと立体的に見えてきます。
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