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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
「あの割れっぱなしのワシントンで、まさかこの票差が出るとは」
先日、同業の知人と話していて聞いたひと言です。
上院は85対5、下院は358対32。
意見の割れることで知られる今の連邦議会で、これほどの大差で一つの法案が通ることは、めったにありません。
その法律の名は、21st Century ROAD to Housing Act(21世紀・住まいへの道法)。
住宅の値ごろ感をめぐる、ここ数十年で最大規模の住宅立法と呼ばれています。
日本から海の向こうの市場を眺めていると、制度の話はどこか縁遠く感じられるかもしれません。
けれども今回の中身は、これからアメリカで一軒の家を買おうとする一人ひとりに静かに効いてくる種類のものです。
狙いは「足りない家を、増やす」こと
この法律の背骨にあるのは、Housing Supply(住宅供給)そのものを増やすという一点です。
建築を阻んでいた規制を緩め、工場でつくる住宅(Manufactured / Modular Housing:マニュファクチャード/モジュラー住宅)の基準を見直し、空いた商業ビルを住まいへと建て替える後押しをする。
さらに家をたくさん建てた自治体には連邦の補助金を厚く配り、滞った自治体には少し減らす、という飴と鞭まで用意されています。
つまり、価格を無理に押さえつけるのではなく、供給の側を太らせて、時間をかけて値ごろ感を取り戻していくという発想です。
効き目はすぐには表れませんが、向かっている方角ははっきりしています。
「家は、企業ではなく人のために」
そしてもう一つ、投資家の目を引く条文があります。
法律の第九編に置かれた、Homes are for People, Not Corporations(家は企業ではなく人のために)という一節です。
ここでは戸建て住宅(Single-Family Home)を350軒以上抱える大口の機関投資家について、新たな戸建ての購入を制限するとされています。
賃貸目的での取得には例外が認められるものの、その物件は七年以内に個人の持ち家として売り渡さなければなりません。
違反すれば一件あたり百万ドル、あるいは購入価格の三倍という、決して軽くない民事罰が科されます。
ここで大切なのは、線引きが「350軒」という大きな数字に置かれていることです。
ウォール街を後ろ盾にした巨大な買い手を念頭に置いた規定であり、数軒の戸建てを大切に育てていく個人の投資家がこの網にかかることはありません。
むしろ、これまで現金を一括で積み上げて競り勝っていた大口の買い手が一歩下がるとすれば、同じ一軒を狙う個人にとっては、競争相手が静かに減ることを意味します。
もっとも、この法律はまだ完全には仕上がっていません。
両院を通過したあと大統領が署名式を一度取りやめ、投票時の本人確認を厳しくする別の法案の成立と引き換えにする構えを見せたと報じられています。
法として実際に動き出すまでには、もうひと山あるということです。
それでも、これだけの大差で両院を通った事実は重いものです。
仮に施行が遅れたとしても、「供給を増やし、巨大資本の買い占めには一線を引く」という方向そのものは、当面の市場の追い風として頭の片隅に置いておく価値があります。
制度の話は、ともすると遠くの出来事のように聞こえます。
けれども一軒の家の値段も、隣に並ぶ買い手の顔ぶれも、こうした一行の条文から少しずつ形を変えていきます。
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