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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
アメリカの賃貸住宅について、この何年かはずっと同じ調子の話が続いていました。
家賃(Rent・賃料)は上がるもの、それも毎年けっこうな勢いで上がるもの、という前提です。
ところが最近、この話が街によって二つにくっきり分かれ始めました。
同じ国のなかで、家賃が下を向いている街と、相変わらず静かに上がり続けている街がはっきり姿を見せているのです。
今日は、その明暗がどこから生まれているのかを、投資という視点から一緒にたどってみましょう。
まず、全体の数字を眺めておきます。
全米の平均的な募集家賃はこの春でおよそ1,767ドル、前年と比べてわずか0.2%ほどの伸びにとどまりました。
専門の管理会社が運営する物件にいたっては、前年からむしろ少し下がったという調べもあります。
あれほど勢いよく上がっていた家賃が、全米で見ればほぼ横ばいの場所まで戻ってきたわけです。
その背景にあるのは、需要が冷えたという話よりも、供給(Supply・新しく市場に出る住戸の量)が一気に増えたという事情です。
集合住宅(Multifamily・複数世帯向けの賃貸住宅)の新築の完成戸数(Completions・新たに供給される住戸数)は、2024年におよそ60万8千戸に達しました。
これは1986年以来およそ40年ぶりという、記録的な建設ラッシュの規模です。
翌2025年は2割ほど減ったとはいえ、それでも48万8千戸が積み上がりました。
これだけの新しい部屋が一度に市場へ出てくれば貸し手のあいだで借り手の取り合いが起こり、家賃は当然のように落ち着きます。
けれども、この建設ラッシュは全米のどこでも同じように起きたわけではありませんでした。
ここから、街ごとの明暗が分かれていきます。
建てすぎた側の代表が、テキサス州のオースティンです。
パンデミックのあと人気が集まり誰もが競うように建てた結果、空室率(Vacancy Rate・空き部屋の割合)はおよそ13.7%にまで膨らみました。
家賃は前年から4.8%も下がり、これは全米でいちばん大きな下げ幅です。
同じようにデンバーやフェニックス、タンパ、サンアントニオといった、いわゆる人気の新興都市でも家賃は前年割れとなりました。
いずれも人の流入を見込んで一斉に建てた街が、その供給の重さに今まさに耐えている格好です。
その反対側にいるのが、ニューヨークのような街です。
もともと新しく建てられる量が限られているため、空室率はおよそ3.1%と全米でいちばん低く、家賃を支える力が残っています。
建設の少ない北東部や中西部の都市では、こうして値崩れを起こさずに踏みとどまっている例が目立ちます。
同じ「賃貸物件」という言葉でも、どの街かによって起きていることはちょうど裏返しになっているのです。
この対比は、投資を考えるうえで一つの大切な教訓を残します。
家賃の高さや人気は、その街の需要だけで決まるものではありません。
すぐ隣でどれだけの部屋が建とうとしているか、つまり供給の見通しが数年先の家賃を静かに左右します。
家賃の数字が魅力的に見える街でも近くにクレーンが林立し、これから大量の新築が控えているなら、その魅力はあっという間に薄れてしまうかもしれません。
逆に、派手さはなくとも新規の建設が細い街は家賃という収入の土台を守ってくれます。
物件そのものの利回りを計算する前に、まずその地域でこれから何戸が建つ予定なのかを覗いておくことが思いのほか効いてきます。
もっとも、いま家賃が下がっている街がこのまま沈み続けるという話ではありません。
多くの調べでは供給過剰の街でも2026年の後半には新しい部屋の吸収が建設のペースを追い越し、2027年に向けて家賃が再び底堅さを取り戻すと見られています。
建てすぎた波は、いずれ引いていくものなのです。
とどのつまり、賃貸という投資ではいつ・どこで波に乗るかが、家賃そのものの数字と同じくらい大きな意味を持ちます。
次に賃貸物件を眺めるときは、提示された家賃を見るより先にその街の空にいくつクレーンが立っているかを思い描いてみましょう。
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