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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
「アメリカには空き家が1,450万戸ある」という見出しを、このところよく見かけるようになりました。
住宅全体の、およそ10戸に1戸が空いている計算になります。
この数字だけを聞くと、アメリカもいよいよ家が余り始めたのだろうか、と思えてきます。
けれども実際に物件を探し始めると、「めぼしい家が出てこない」「良さそうな物件はすぐ消える」という声のほうが、いまも圧倒的に多いのです。
1,450万戸も空いているのに、買える家がない。
この矛盾は、数字が間違っているのではなく、「空いている」という言葉の中身を開けてみないと解けない類のものです。
駐車場を思い浮かべると、分かりやすいかもしれません。
区画が100あって、車が停まっているのは60台だとします。
空いているのは、40区画。
けれども、そのうち30区画は月極契約済みで、5区画は来客専用、3区画は工事中だったりします。
実際にいま停められるのは2区画しかないという状況は、駐車場では少しも珍しくありません。
「空いている(Vacant)」と「使える(Available)」は、まったく別の数え方なのです。
1,450万戸の中身を開けてみる
住宅ローン比較サイトのLendingTree(レンディングツリー)が国勢調査局のAmerican Community Survey(アメリカ地域社会調査)2024年版を分析したところ、全米の空き家は約1,450万戸、住宅ストックの10.1%にあたることが分かりました。
肝心なのは、その内訳です。
いま売りに出されている家は、80万戸に届きません。
1,450万戸のうち、買い手が実際に手を伸ばせるのは5%あまり、ということになります。
そして最も大きな塊を占めているのは、季節・レクリエーション利用(Seasonal or Recreational Use)の470万戸です。
別荘、避暑地の家、冬のあいだだけ使う家。
持ち主にとっては空き家ではなく、「いま留守にしている自分の家」です。
さらに260万戸は賃貸募集中(Available for Rent)で、これも売買市場には出てきません。
残りは相続の途中であったり、改修中であったり、なんらかの事情で一時的に市場から外れている家です。
そうすると、1,450万戸という数字は「余っている家」ではなく、「いま誰も寝起きしていない家」を数えたものにすぎないと分かってきます。
統計の定義と買い手の実感が食い違うのは、たいていこういうところです。
空いている州ほど、家は安い
州別に見ると、この数字はもう一段おもしろくなります。
空室率(Vacancy Rate)がいちばん高いのはメイン州の20.6%で、バーモント州19.4%、アラスカ州17.6%と続きます。
いずれも別荘地を多く抱える州で、五戸に一戸が空いている計算です。
逆にいちばん低いのはコネチカット州の7.0%、次いでワシントン州7.3%、カリフォルニア州・ニュージャージー州・オレゴン州が7.5%で並びます。
ここで、素直に考えると妙なことが起こります。
家が余っている州のほうが、安く買えそうな気がします。
そして実際そのとおりで、空室率の低い州の住宅価格中央値の平均は約43万5,000ドル、空室率の高い州よりも16万7,700ドルほど高いのです。
けれども、この関係を「空きが多いから安い」と読むと、原因と結果が入れ替わってしまいます。
空室率が低いのは余裕がないからであり、余裕がないのは、その土地に住みたい人が多いからです。
空室率は住宅の余りぐあいを測る物差しであると同時に、その土地の人気を裏側から映した鏡でもあります。
投資の判断に、どう使うか
ここまでを踏まえると、この数字の使い道が見えてきます。
空室率の高い州は、確かに取得価格を抑えられます。
けれどもメイン州やバーモント州のように季節性の強い市場では、借り手も買い手も一年の限られた時期に集中します。
手放したいときに買い手がいるかという「出口」の細さは、表面利回りの計算式には決して出てきません。
いっぽう空室率の低い州は、入り口が高いぶん、貸すときも売るときも相手を見つけやすい。
どちらが正解という話ではなく、「安く買える」と「いつでも動かせる」のどちらに重みを置くのかという、設計の問題です。
そしてもうひとつ、見落とせない流れがあります。
全米の空室率は2023年の10.4%から2024年には10.1%へ下がり、空き家はおよそ30万2,000戸減りました。
この十年ほど、空室率は総じて下がり続けています。
供給が需要に追いつかない状態が長く続いた結果、市場の「あそび」にあたる部分が、少しずつ削られてきたということです。
。。。
「1,450万戸が空いている」という見出しは、間違ってはいません。
けれどもその数字は、買い手の選択肢を1,450万通りには広げてくれません。
市場を見るときに本当に効いてくるのは、「いくつ空いているか」ではなく「そのうちいくつが、自分の側に開かれているか」という問いのほうです。
大きな数字を見かけたときほど、その中を一度開けてみる。
そのひと手間があるだけで、賑やかな見出しに振り回されることは、ずいぶん減っていきます。
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