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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
アメリカの持ち家には、壁の中に金庫が埋め込まれている――そんな言い方をしてみたくなるデータがあります。
Home Equity(ホームエクイティ:住宅の純資産部分)のことです。
家の時価からローン残債を引いた残りが、この「金庫の中身」にあたります。
ICE Mortgage Monitorによれば、アメリカの住宅所有者が持つ純資産の総額は17兆ドルを超え、そのうち約11兆ドルが「引き出し可能」とされる水準にあります。
Tappable Equity(引き出し可能な純資産:家の評価額の8割までを上限に、実際に借り入れへ使える部分)と呼ばれる数字です。
そして2026年の第1四半期、この金庫からの引き出しは第1四半期として2021年以来の高水準に達しました。
けれども、興味深いのは「いくら引き出したか」よりも、「どの扉から引き出したか」のほうです。
三つの扉
金庫の扉は、大きく分けて三つあります。
一つ目の扉は、Cash-out Refinance(現金引き出し型の借り換え)です。
今のローンを一度解約し、残債より大きな新しいローンを組み直して、差額を現金で受け取る方法です。
扉としてはいちばん大きく開きます。
けれども、この扉には重い条件が付いています。
金庫を開けるために、家全体の鍵を今の金利で作り直さなければならないのです。
3%前後で組んだ古いローンを持つ人が、6%台半ばの金利で全額を組み直せば、引き出した現金より失う低金利のほうが高くつく場面が少なくありません。
かくして、この扉は今、あまり人気がありません。
二つ目の扉は、Home Equity Loan(ホームエクイティ・ローン:住宅純資産を担保にした第二のローン)です。
今のローンには一切手を触れず、その「後ろ」にもう一本、固定金利のローンを追加する方法です。
Second Lien(第二抵当)と呼ばれる位置づけで、まとまった金額を一度に受け取り、決まった年数で返していきます。
三つ目の扉が、HELOC(Home Equity Line of Credit:住宅純資産を枠にした当座借入枠)です。
こちらはローンというより「枠」で、必要なときに必要な分だけ引き出し、使った分にだけ金利が付きます。
金利は変動型が基本で、クレジットカードの限度枠に近い感覚の扉です。
いま、どの扉が開いているか
ニューヨーク連銀の家計債務レポートによれば、HELOCの残高は2026年第1四半期時点で約4,460億ドルと、16四半期連続の増加になりました。
第二抵当型の貸出も、第1四半期としてはおよそ20年ぶりの水準まで増えています。
つまり、多くの人が一つ目の大きな扉を素通りして、二つ目と三つ目の小さな扉に並んでいるということです。
理由は明快で、手元にある「3%の古い鍵」を手放したくないからです。
低金利期に組んだローンをそのまま守りつつ、増えた純資産の部分だけを別口で取り出す。
この「母屋に触らず、離れだけ増築する」ような借り方が、高金利期の主流になっています。
投資の元手として見る場合
不動産投資の文脈では、この金庫は「次の一戸」の頭金の源泉としてよく登場します。
自宅や既存物件のエクイティをHELOCで引き出し、次の投資物件の頭金に充てる、という流れです。
リフォーム資金として使い、物件価値と家賃を引き上げてから見直す戦略とも相性があります。
けれども、忘れてはいけないことが一つあります。
どの扉から取り出したお金であっても、担保は「今住んでいる家」だということです。
投資が計画通りに行かなかったとき、返済が滞れば影響は自宅に及びます。
変動金利のHELOCなら、金利上昇局面で返済額そのものが膨らむ可能性もあります。
金庫が大きく見えるときほど、引き出す金額は「返せる金額」から逆算しておきたいところです。
。。。
三つの扉には、それぞれ開けやすさと引き換えの条件があります。
大きく開くけれども鍵を作り直す扉、固定金利で静かに開く扉、必要な分だけ何度でも開く扉。
どれが合うかは、手元の金利と、お金の使い道と、返済の見通しの組み合わせで決まります。
順番として大切なのは、扉を選ぶことよりも、「何のために金庫を開けるのか」を先に決めておくことのほうです。
開ける理由が定まってから、鍵に手を伸ばしても遅くはありません。
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