こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
このところ、アメリカ不動産金融について書いています。
今日からはアメリカ不動産業界に端を欲して世界金融危機へとつながった、例の「サブプライム問題」について深堀していきます。
2つ目のマーケットが急成長
1990年代後半から2000年代前半にかけて、サブプライムマーケットと呼ばれる市場が異常な盛り上がりを見せました。
通常はアメリカでローンを組んで住宅を購入する場合、その審査基準が厳しく定められています。
- 月額収入
- 抱えている返済義務のある借金
- 支払い義務のある保険
等、個人資産の様々な状況が融資機関の審査員により厳しく精査され、ローンを組めるかどうかが判断されるわけです。この点は日本でも全く同じですね。
このように、通常のそれなりに厳しい審査を通過してローン組みを許可するレベルのマーケットを「プライムマーケット」と呼びます。
これに対し、プライマリーマーケットほど審査が厳しくないレベルのマーケットを「サブプライムマーケット」と呼びます。
要するにマーケットを階層とイメージすると分かりやすいのですが、厳しい審査を通過した「優良な層」をプライマリーマーケットと呼び、その下の層を「サブプライムマーケット」と呼ぶわけです。
このサブプライムマーケットの基準は、例えば
- プライマリーマーケット審査基準を2倍甘くしている(本来の基準を半分満たせば可)
- 0%~5%と異常に低い頭金と変動金利ローンを組み合わせている
- その他、保守的とは正反対の基準を可としている
等、そのローン審査基準を非常に甘くしたものでした。
非常に甘い基準ですから、極端ではなく
- 頭金を持ち合わせてない
- 収入が安定しているとはいえない
このような人でもローン審査を通過し、融資を受けて住宅を購入することが出来たのです。
冷静に考えれば、このような甘い基準で融資を受けられるなど到底考えられず、「債務不履行者」が出ることは時間の問題であることは分かりきっています。
返す返すもよくこのような甘い基準で通過させたものだと今でも不思議に思いますが、その背景にはやはり
「アメリカの不動産価格は上昇し続ける」
という迷信を根拠に不動産物件を担保に入れ、銀行もお財布の紐を緩くしてどんどん貸し出した事実があります。
金融関係者一同、不動産バブルに浮かれて感覚がマヒしていたわけです。
株でも通常のビジネスでもそうですが、物事がうまくいってる時ほど人の感覚は鈍ってしまうもの。
同時期にはプライマリーマーケットから派生的に生み出されたサブプライムマーケットは異常に急成長し、その債権はファニーメイ、フレディーマックといったセカンダリーマーケット(債権を買い取る市場)に流れ、その他の多種多様な債権に混ざって証券化されて投資家に売りに出されたのです。
この一連の流れはマネーロンダリングの債権版、といっても過言ではないかもしれません。
そして事態は急速に変化していきます。
不動産バブル崩壊と金融危機に発生
2006年に入ると、それまで上昇し続けていた不動産価格に変化の兆しが見えてきました。ついに物件価格が下がり始めてきたのです。
この煽りを一番最初に受けたのは、当然ながらプライムマーケットではなくサブプライムマーケットでした。
サブプライムマーケットでは前述のように甘い審査でローン組みが許されていましたが、ローンを組んだ際の「変動金利ローン」の仕組みにより高金利で再設定された途端、急激に上昇したローン返済額を支払うことが出来ず、「債務不履行」が続発し始めたのです。
(金利再設定をした時点で、金融機関はこうなることを分かっていたはず)
このようなローン返済が難しくなった場合の為にも、それ以前に1980年代の金融危機を経て開発された「リファイナンス」という手法がありましたが、この時はどの金融機関も一様にリファイナンスをさせてくれない状況になっていました。
なぜなら、不動産金融におけるリファイナンスの仕組みは「住宅価格が上昇し続ける」という前提があって成り立っていたからです。
住宅価格が下がり始めた今、当然ながら「物件の価格上昇を見越してリファイナンスが出来ますよ」という理屈は成り立たない状況になっていたのです。
そしてこの流れは同時に従来その流動性が低い不動産の流動性を更に低くし、「売りたくても売れない」という、正に泣きっ面にハチの様相を呈してきました。
そしてこれに追随するかのように、サブプライムマーケットを内に大量に抱えていたファニーメイとフレディーマックの双方に大きな難が訪れることとなりました。
かくしてアメリカ不動産市場はジェットコースターばりの急降下に直面し、2007年までにはアメリカの全住宅物件の実に1%が差し押さえとなり、2010年までには少なくとも3%まで上昇することが見込まれました。
2008年8月時点の融資金融機関協会(Mortgage Bankers Association)の調査では、アメリカ全土の住宅ローンの9.2%が「債務不履行」もしくは「差し押さえ」になるだろうと予想していたほどです。
まとめ
このように過去を振り返ってみると、不動産バブルの崩壊はサブプライムマーケットの崩壊に始まっています。
そして因果関係をみるのであれば、明らかに甘い審査基準を許していたずらに住宅ローンの数を増やしてきたプライムマーケットに最初の責任があるはずです。
同時にそのようなサブプライムマーケットからの債権であることを知りながら、フィルターをかけずにそもまま他の債権にミンチ肉のように混ぜて証券化し、投資家に売り続けたセカンダリーマーケット(ファニーメイとフレディーマック)にも責任があると思うのです。
そのつけは全て、エンドユーザーである投資家に流れてきました。
この時に証券の内容を精査していた投資家は
「こんな商品はおかしい」
と手早く身を引いて、賢くこの時期を乗り越えています。
その一方で
「ファニーメイやフレディーマックが出している証券だから」
と盲目的に証券を保持していた投資家は、須らく大損することとなったのです。
結局のところ、提供する側も提供される側も不動産バブルという浮かれた状況の中で冷静な判断を欠き、己の欲のみを先行する姿勢が一連の災難をもたらした、と考えるのは私(佐藤)だけでしょうか。
明日に続けます。
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