こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
昨日はFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長がジャクソンホールにて言及した今後の方針について触れました。
日本の政治に関するフィードバックを読む時に
「言い方が曖昧だ」
「もっとはっきりと方向性を示してほしい」
そんな評価を目にすることがありますが、この
「曖昧なものの言い方」
「奥歯に物の挟まったような言い方」
が米国にもないわけではありません。
事実、過去数カ月間のパウエル議長のものの言い方は
「曖昧さがやや残り」
「奥歯に物が挟まっている」
ような表現が続いており、国民を(或いは世界の人々を)やや不快にさせていた面があります。
パウエル議長は政治家ではありませんが、その発言は米国を始め各国の経済に大きく影響し得る為に慎重にならざるを得ない側面があり、特に過去数ヶ月はやや曖昧さの残る表現が目立っていました。
「半ば分かりきっているけれどもあえて曖昧にしている」
ような表現も多かったものです。
けれども前回のジャクソンホールでの発言は本年からの本格的な政策金利引き上げの重要局面に入って以降、最も明快に方針を示していたように思います。
おさらいすると、FRB(連邦準備制度理事会)が理想とするインフレ率は2%を少し超えるあたりです。
このレベルが経済に好循環をもたらす上で最適とされており、現在の行き過ぎたインフレ傾向を抑えるべく、政策金利を徐々に上げ始めていることになります。
例えるならたった今は上空はかなりの強風で荒れており、その中を飛ぶ大型旅客機が右に左に大きく揺さぶられて非常に不安定な状態です。
その強風に揺さぶられる大型旅客機の飛行を安定させながら嵐をくぐり抜けていこうという試みにはかなりの操作技術が必要であり、FRB(連邦準備制度理事会)は正に
「逃げられない大嵐をくぐり抜けて軟着陸を要求されている」
ことになります。
そしてこの軟着陸の試みに対しパウエル議長は
「痛みを伴う」
と明確に言明しており、この痛みがアメリカ不動産市場にどのレベルまで影響してくるかを注視しておかなくてはなりません。
市場への影響とは具体的には
「アメリカ不動産の価格の動き」
のことであり、全体的に価格は
上昇傾向にあるのか
下降傾向にあるのか
をしっかりと捉えることで、たった今のベクトルが示す方向性が見えてくることになります。
その方向性を見定める指標が
YoY(Year-over-year:前年比)
MoM(Month-over-month:前月比)
Inventory(在庫)
です。
最初のYoY(Year-over-year:前年比)から見ていきましょう。
YoY(Year-over-year:前年比)

YoY(Year-over-year:前年比)
はそのまんま
「前年と比較した場合の変化の割合」
のことです。
大局を捉える上では物件価格の記録が取られ始めてから現在までを網羅するグラフを見るのが一番ですが、「たった今のベクトルの変化」を捉えるのであればこの「前年比」の指標が一番です。
一年間の変化を見て価格は上がる傾向にあるのか、あるいは下がる傾向にあるのかを捉えることが大切になります。
例として下記のグラフを見てみましょう。

上のグラフは
2021年9月〜2017年9月
のアメリカ不動産平均価格を示すグラフです。
この大局観で見ると、全体的なトレンドは価格上昇傾向にあることが分かります。
上記期間中のいつであれば、
「この上昇トレンドは続くのか?」
「それともここから下がりのトレンドが始まるのか?」
を見立てる上では
「現在地点から過去1年間」
を見ることでその様子が見えてきます。
上のグラフの場合、
2014年第4四半期 〜 2015年第1四半期
の期間では
「価格が下がっている」
と判断することが出来ます。
けれども2015年上旬の段階ですぐ後ろの2014年後半だけを見てしまうと
「価格が下がっている」
「ここからは下げのトレンドが続くだろう」
と判断してしまい、これは早計です。
そこですぐ後ろではなく2015年頭から1年前を見てみると
「1年前よりも上がっている」
ことが分かり、事実、その後も価格は盛り返して再び上昇機運に戻り始めていることが分かります。
すなわち
YoY(Year-over-year:前年比)
という指標は
「長期トレンドを推し量る」
のに向いているわけです。
その長期トレンドを捉える視点で見た時、たった今の時点ではどんなことが言えるのでしょうか。
アメリカ不動産の価格は1年周期で見た時に7月がほぼピークタイムにあり、最も価格が元気に動く月です。
例えば統計が出されている間近の
2021年7月〜2022年7月
でYoY(Year-over-year:前年比)を見る時、その長期トレンドの答えは
「全米平均は11%上昇している」
です。
すなわち本年は3月から政策金利の引き上げが段階的に開始されていますが、少なくとも今夏までの実績としては
「長期トレンドは上昇が続いてる」
ことになるのです。
事実、全米の不動産市場トップ250を並べた時には前年比で価格が下がっている市場は皆無であり、今の時点で
「アメリカの不動産価格は下がり始めた」
という短絡的な記事の見出しだけを見ると
「全ての物件価格が崩れ始めた」
という印象を受けてしまいますが、しっかりと長期トレンドを見ると
「本格的な下げには至っていない」
ことが明確に分かります。
明日に続けます。
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