こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
1ヶ月程前から
「アメリカ不動産価格に陰り」
「アメリカ不動産価格が下落」
そんなくだりの記事を見かけるようになりました。
面白いことに、昨年の今頃はまだ
「低金利のうちに急げ!」
そんな勢いの最中にあり、物件購入の勢いが在庫の枯渇を後押しして
需要増・供給減
の要素で物件価格は激しい上昇が続いていました。
それが本年3月以降に段階的な政策金利の利上げが開始されてからは昨年までとは状況が一転。
現在は昨年の勢いのままに
「急げ!今だ!」
という空気感はありません。
とはいえ、それでは
「アメリカ不動産価格が下がり始める」
という記事をそのまんま鵜呑みにできるかといえばそれは違います。
昨日お伝えしたように
「全米の平均価格では2021年7月〜2022年7月の昨年比では11%増」
「全米トップ250市場ではどこも昨年比マイナスになっていない」
これが事実があり、
YoY(Year-over-year:前年比)
で見る長期トレンドでは
「アメリカ不動産価格が下落」
この記事は正しくないことになります。
補足すると記事が全面的に間違っているわけではなく
「昨年比で見て価格の伸び率は下がり始めている」
「実際にマイナスになっている地域市場もある」
これは事実です。
昨年比で11%の上昇とは決して低くない上昇率ですし、この数字を見る限りは全体が下がっているとは言えません。
厳密には昨年比の不動産価格が
⇛ 上昇し続けている地域
⇛ 下がり始めている地域
の双方があり、それぞれの地域市場の特色に違いがあることになります。
すなわち2022年夏場のトレンドとしては
「全米平均は昨年比で11%と今だ上昇傾向」
「けれどもその上昇率は下がりつつある」
結果として
「価格推移はコロナ前の水準に戻りつつある」
という様子が伺えます。
たった今のアメリカ不動産市場は
「本来の然るべき価格上昇割合に戻りつつある」
というステージにあり、
「金利上昇により物件価格が大きく下落!」
「物価高で大衆は誰も物件を購入しなくなった!」
ということはありません。
最も下げ率の大きい地域市場は

同時に
「全米平均は正常値に戻りつつあるステージ」
とはいえ不動産価格が正常値で安定するのか、或いはそれ以下に下がっていくのかは今のところはっきりとは分かりません。
今の段階で言えるのは全米平均不動産価格はまだ上昇しているとは言え、
「価格そのものは上昇していても、昨年比の伸び率が急激に下がっている市場の動向」
ここは特に見逃してはならないと思います。
その昨年比割合の下落が最も際立っているのは
テキサス州オースティン市場
であり、同地域の住居用物件の年間価格推移は
2020年7月 〜 2021年7月:44%
2021年7月 〜 2022年7月:11%
と、上昇率が大きく下がっています。
11%とは本年7月時点の全米平均不動産価格の昨年比と全く同じですが
「44%の上昇から11%の上昇へ変化」
と未だに価格上昇トレンドは変わらないとはいえ
「オースティン市場の勢いは急速に落ちている」
ことは間違いなく、この価格の下げ具合が
「然るべき水準に落ち着いて留まるのか」
「そのまま勢いを落とし、長期トレンドで価格が下がり始めるのか」
については注意深く観察し続ける必要があると思います。
またこれと同様の傾向が見受けられるのが
カリフォルニア州サンディエゴ
カリフォルニア州サクラメント
カリフォルニア州サンノゼ
ワシントン州シアトル
アイダホ州ボイシ
等の地域です。
これらの地域市場はいずれも2021年夏まで「急激に価格が上昇」し続けていた都市であり、
「2022年夏も前年比で伸び続けている」
「けれども勢いは急速に落ち始めている」
という点が共通しています。
オースティン市場を筆頭に、これらの地域ではその推移をよく観察する必要がありそうです。
ちなみに当ブログでは全米市場を大きく分けて
キャピタルゲイン市場 … 物件価格が大きく上昇する傾向がある人口増の激しい住宅需要が高い地域市場
キャッシュフロー市場 … 物件価格の伸びは大きくはないが、キャッシュフローの割合が高い地域市場
ハイブリッド市場 … キャピタルゲイン市場とキャッシュフロー市場の双方の顔を併せ持つ市場
の3つに分けてお伝えすることがあります。
この分け方で見た時にここでお伝えする
「2022年夏も前年比で伸び続けている」
「けれども勢いは急速に落ち始めている」
とはその全てが
キャピタルゲイン市場
であることに分かりますし、ここに改めて2008年以降に露呈されたキャピタルゲイン市場の特徴を再び捉えることが出来ます。
高い需要を受けて急激に価格が上昇していくキャピタルゲイン市場では急速に価格がしぼんでいく傾向があり、昨年比の割合がその前々年と前年の割合と比較した時に急速に萎む様子は、まさにキャピタルゲイン市場の特徴を現しているのです。
この傾向は特に
カリフォルニア州
ニューヨーク州
を始め東西海岸に近い地域市場に見受けられる傾向であり、たった今見ている前年比の変化をもって長期トレンドを推し量る時に特にこれらキャピタルゲイン市場の割合は振れ幅が大きい為
「少し先の未来」
を見通すのに重要な役割を果たすことになります。
かくして、今の不動産価格トレンドを捉える上では
YoY(Year-over-year:前年比)
を使うことが適切である点を押さえておきましょう。
明日に続けます。