こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
現在のアメリカ市場で住居物件価格が高止まりしている理由の一つである供給不足の話から、ゾーニング緩和の動きについて言及しています。
今回取り上げているフロリダ州の場合はLive Local Act(ライブ・ローカル・アクト)という新しい法案をもって、
商業ゾーン
工業ゾーン
にも一定の条件でマルチファミリー物件を含む住居物件の建築を許可する取り組みです。
そもそも論になりますが、土地利用ゾーニングはもとをただせば20世紀初頭にドイツから取り入れられた制度であり、
- 労働者階級の家庭が低密度の住宅に入居できるようにする
- 公衆の安定と安全を確保する
- 急速な都市化から生じるリスクに対応する
という目的で導入されました。
ゾーニングそのものは
「この地域では住居物件の建築を許可する」
「この一画では商業施設の建築のみ許可する」
といった、特定の不動産物件を建設して良しとする地域をまとまった区画内で許可するという、土地の使い方の定義です。
多くの人種がアメリカ大陸に入植し始めた当時、その文化はドイツ由来の流れを組む場合が多くありました。
あまり知られていない話ですが、他言語を話す人種が集まり始めた当時のアメリカでは
「言葉がバラバラだとやりにくい」
「同じ大陸で暮らす以上、共通の言語を決定しよう」
という話になり、アメリカ大陸での公用語を英語にするか、或いはドイツ語にするかで投票が行われたのだとか。
投票の結果、僅差で英語が勝り、アメリカ大陸では共通語を英語とすることが決められました。
その時に僅差の結果が反対でドイツ語が共通語に選ばれていたとすれば、今頃米国ではドイツ語が飛び交っていたことになります。。
そこで土地の使い方も、公用語には選ばれなかったものの強い影響力をもっていたドイツの流れで、ドイツでは当たり前となっていた「ゾーニング」という土地利用の定義が導入されることになったのです。
排他ツールと化したゾーニング
ところがドイツを由来とするゾーニングは表向きこそ土地利用の定義でしたが、間もなくしてマイノリティ人種を白人地域から排除する手段として使われることになります。
日本でも移民を受け入れがたいとする風潮は現存すると思いますが、当時のアメリカでは全人種が移民であるにも関わらず、白人社会が幅を利かせてわが国土とし、白人以外を受け入れがたしとする風潮が最初からあったのです。
その上で土地利用を定義づけるゾーニングは、白人しか暮らせない地域を正当化するうってつけのツールとなりました。
史実によると最初の一戸建て物件対象のゾーニング法は、カリフォルニア州が都市に土地を区分する権限を与えた後、バークレー市で採用されています。
惜しむらくは、ゾーニング法を採用したバークレー市は「マイノリティ居住者」と「ビジネス」を白人コミュニティから排除するように、意図的にゾーニングを利用したのです。
そして近代史では第二次世界大戦後の数十年で、都市居住者が郊外へ大量に移住する現象が一戸建てゾーニングに特に大きな影響を与え、当時のデベロッパーたちは黒人やユダヤ人の居住が暗黙の了解で許可されていない地域を
「住居物件ゾーニング」
と定義し、そこに住宅地を開発していきます。
見た目は
「ゾーニングに従って住居物件を建築している」
と言えますが、誰も口にはしないものの、その地域は白人しか暮らせない地域。
このような形で法律の力を使って、白人社会では(白人にとって)安心できる居住地域が広がっていったわけです。
そしてアメリカ不動産に関する法律では有名な
Fair Housing Act(フェア・ハウジング・アクト:公正な住宅法)
が成立した後も、残念ながらゾーニング法を利用した人種隔離は続いてきました。
また不動産市場の最小単位は市町村になりますが、市町村が独自に最小敷地面積を採用したり、複数世帯物件やManufactured housing(マニファクチャード・ハウジング:移動型組立住宅)を禁止する例も出てきました。
この自治体の動きにより、現在の都市の住宅用土地の約75%が一戸建て住宅用にゾーニングされています。
結果として物件オーナーとしては一戸建てのオーナーが最多となり、今度は一戸建て住宅のオーナーによる排他的運動の機運が出てくることになります。
すなわち一戸建て所有者にとっては、自分が暮らす地域一帯が一戸建てのみ固められていることに安心感を覚えるわけで、新しい開発が進められようものならそれは自分たちのコミュニティに対する侵害であり、かつ不動産資産価値に対する脅威であると考えるようになったのです。
こうなるとその対策はゾーニング条例だけでは不十分となり、市町村は新しい建設許可を制限し始め、その意図として環境保護や都市の拡大防止を主張することになります。
結果としてデベロッパーは
- 市の建設局
- 消防署長
- 土木技師
等により制定されるますます厳格な条件に従わざるを得なくなりました。
かくして街の発展を阻害する条件が21世紀に入っても続き、住宅価格が急速に上昇することになります。
。。。
このように歴史に遡って学んでみると、ゾーニング法そのものは問題の一部分に過ぎません。
結果として
「歴史に学べば、単に一戸建てゾーニングを排除するだけでは住宅供給を大幅に増加させる可能性は低い。」
「それ以前に、住宅開発を解放するには長い歴史で積み上げられた悪しき規制の連鎖を断ち切る必要がある。」
ということになります。
ゾーニング問題について、明日に続けます。