こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
年の瀬にあたり、来年のアメリカ不動産市場の見立てについてお伝えしてきました。
一面、アメリカ不動産市場は先を読みやすい投資先だと考えています。
流動性の低さという不動産の性質が功を奏し、2020年初頭に起こった未曽有のパンデミック時期のように、よほど特殊な出来事がない限りはその水位はそれなりにゆっくりしたものです。
そこで今回はrealtor.comの統計から見立ててきましたが、その他の統計でも概ね似たようなことが語られています。
誰しも完全な予測はできないものの、大まかな方向性としては見えてきたと言えるのではないでしょうか。
そこで昨日までにご紹介した予測を補足する意味合いで、雇用統計についても今の事情を押さえておきましょう。
ご存知のように雇用統計もまた先の経済を占ううえで重要な指標となっており、米国経済が他国に及ぼし得る影響が決して小さくないことから、米国の雇用統計は世界的にも注目されています。
2023年末の雇用情勢を押さえ、その流れから来年への影響を鑑みておくことは、見立てる方向性にそれなりの自信をつけてくれるはずです。
2023年11月の雇用統計から
率直に、2023年11月の雇用統計は経済の微妙なバランスを示しました。
米国企業は199,000人の労働者を追加し、これは10月のデータからの小さな増加ですが、過去12ヶ月の平均である240,000人を下回っています。
失業率は微減の3.7%となり、労働市場における求職者の比率が少なくなったようです。
特に医療や公共部門では雇用が増加したものの、小売業では雇用が減少し、建設業や専門・ビジネスサービス業界では大きな変化は見られない状態。
ちなみにこの時期に米国では労働ストライキが起こっており、製造業の給与データを押し上げる要因となっています。
この11月の雇用統計のデータもまた、連邦準備制度理事会(FED)による今後の経済政策の方向性の決定に重要な影響を与えるわけです。
連邦準備制度理事会(FED)は現在の金融政策が経済に十分な制約を与えているかどうかを評価して、その判断を政策決定で議論することになります。
この手の資料はインフレの統計と合わせて、この12月の会議での重要な判断材料となるわけです。
求人数は減少
その一方で10月の求人数は前月の940万件から870万件へと減少したようです。
この求人率の低下はパンデミック前の約4.8%の高水準に近づきつつあり、2022年3月の7.4%のピークからは顕著な減少となっています。
また仕事を辞めた人々の件数は約3億6700万件と2.3%で安定しており、パンデミック前の水準と比べて高いものの、2021年初頭から見られた「グレート・レジグネーション」と呼ばれる大きな離職と比較すると随分低下しています。
求人および労働転換データ(JOLTS)は企業が取りたい職位の数を縮小する一方で、労働者は比較的容易に
「より良い職位に移ることができている」
とのこと。
住宅市場における影響としては民間従業員の平均時給は過去1年間で4.0%上昇し、先月のデータと同等で価格安定性に一致するパンデミック前の上限に近づいています。
このことは給与がインフレを上回り、労働者の実質的な購買力が増加していることを意味するものです。
けれども売り出し中の典型的な住宅の購入コストは依然として賃金の伸びを上回っており、11月には7.9%上昇した結果が出ています。
ただ、この点は昨日までに見たように、物件価格そのものは落ち着いてくることが予想されています。
そして住宅ローン金利の緩和は続き、収入の上昇とともに住宅購入者の購買力を高めるとの予想です。
また新築一戸建て住宅の増加や複数世帯賃貸住宅が次々に完成することは来年に家を探す世帯にとっての選択肢を広げ、最近の住宅価格の上昇傾向を抑制する可能性が十分にあります。
かくして中古住宅の価格が低下することで、2024年の住宅購入者にとっての手頃価格がさらに改善されることが期待されるわけです。
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結果として、11月の雇用統計は米国経済における様々なセクターの異なる動きを示した様子です。
一部の産業では雇用が増加している一方で、他の産業では変化が少ないか、または減少しています。
ということは経済がパンデミックの影響から回復する過程にある証拠なわけで、さまざまな産業における雇用の変動はその回復過程の複雑さを反映していることになりま。
そして何より、連邦準備制度理事会(FED)による今後の金融政策の決定はこのような雇用データに大きく影響されるため、市場はこれらのデータを注視するわけです。
特にインフレデータとの関連でこれらの統計に関する経済指標は来年もまたがって今後数ヶ月間の経済動向を左右する重要な要素となるのではないでしょうか。
そしてアメリカ住宅市場においては購買力の増加と住宅ローン金利の緩和が住宅購入者にとっての状況を改善していくと予想されています。
住宅価格の上昇が続く中これらの要素が住宅市場のバランスを取る役割を果たす可能性があるわけで、新築住宅の供給増加や既存住宅価格の低下は住宅購入者にとっての選択肢を広げ、購入の手頃価格を改善する重要な要因になることはお伝えしたとおりです。
かくして11月時点の雇用統計は米国経済全体の状況を映し出していると同時に、個々の産業や市場における特有の課題や機会を浮き彫りにしている様子。
総じて雇用情勢は下り坂になりつつあるように見え、それに伴って利上げが抑制されることを祈るばかりです。