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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
今日は、バージニア州ヘンリコ郡が始めた「データセンター税収を使って初めての持ち家購入を助ける」という、全米でも例を見ない取り組みについて触れておきたいと思います。
AI時代の象徴ともいえるデータセンターが地域の電力や水を消費し、土地を押し上げ、住民との摩擦を生む。
これが全米の都市が抱える新しい課題です。
けれどもヘンリコ郡はまったく逆の発想で、このAIブームが生み出す税収の波を若い世代や地元で働く人たちの「マイホーム取得」につなげています。
サーバーが立ち並ぶ無機質な建物が、地域の未来を支える「スターターホーム」へと変わるのです。
その仕組みがどのように動き、なぜ不動産市場にとって重要なのかを、投資家目線も交えながら整理していきましょう。
住宅の買い下げ
ヘンリコ郡の最大の特徴は、データセンターから生まれる新税収を「住宅価格を直接買い下げる仕組み」に転換したことです。
通常、自治体は住宅支援を行う際、州や連邦政府のプログラムを頼ります。
けれどもそれらは申請が複雑で、支給までの時間も長いことが多く、実際の供給にはなかなかつながりません。
今回ヘンリコ郡が創設した「Affordable Housing Trust Fund」はもっとシンプルで、スピーディーです。
開発業者がプロジェクトのコストと販売価格を提示し、審査を通過した場合、郡が1戸あたり数万〜10万ドル以上の資金を補填します。
たとえば市場価格が46万ドルのタウンホームがトラスト基金の補助により38万ドル程度まで下がり、さらに建築許可や水道・下水道の接続料が免除されることで、購入者の負担額は大幅に縮小されるのです。
これは単なる補助金ではありません。
家そのものの価格を下げる「価格そのものへの直接介入」であり、住宅取得のハードルが急速に高まる今のアメリカで極めて効果的なアプローチとなります。
では、なぜヘンリコ郡にはこれが可能だったのでしょうか。
理由は明確で、郡が長年にわたり保守的な財政運営をしてきたため、データセンターからの税収を「使い道の自由度が高い新しい財源」として扱える状況にあったからです。
その財源を、地元ワーカー向け住宅に全振りしたわけです。
コロナ後の住宅価格は、ヘンリコ郡でも例に漏れず急騰しました。
2020年以降中央値価格は約32%上昇し、購入に必要な年収は約7万ドルから12万ドルへ。
なんと70%も増えています。
その一方で教師は約5.4万ドル、警察官は約6万ドル、リテールワーカーは約2.8万ドル。
いくら働いても、地元の家が手に入らない。
このねじれた現実を目の当たりにした郡が、「今のタイミングで手を打たなければ、地域を支える人材が住めなくなる」と判断したことが今回の制度誕生につながったのです。
そこで、実際に補助が入ると何が起きるのでしょうか。
その答えは「Discovery Ridge」というタウンホーム開発にあります。
市場価格46.5万ドルの新築物件がトラスト基金と開発会社の協力により43万ドルで契約でき、さらに11万2,000ドルがクロージング時に小切手で援助され、実質価格は31.8万ドルまで下がります。
驚くべきは補助を受けて購入した住戸も、隣のフルプライスの住戸とまったく同じ仕様で作られていることです。
住宅格差を生まないつくりになっている点は、アメリカの他都市が学ぶべきポイントです。
ちなみに転売の際は所得制限付きの買い手に売る必要があり、10年以内の売却では恩恵がフルには残りません。
実にうまくできていますが、これは「一度きりの割引」を防ぎ、次の世代にも手の届く価格を維持するための仕組みです。
そして投資家として特に注目すべきは、「住宅市場と職種の関係」です。
現在、AI導入の影響が最も出ているのは金融・専門職・テックなど高所得層。
これらの職種は住宅購入層の中心であり、採用が冷え込むと不動産市場も敏感に反応します。
実際にヘンリコ郡では2024〜2025年でリスト価格が7%下落しています。
一方で教育・医療・ロジスティクスなど、多くの「住宅取得が難しい層」は職の安定性こそ高いものの、住宅価格には追いつけません。
このギャップを埋めるために、ヘンリコ郡はAIブームの恩恵を受ける側ではなく恩恵を還元する側として政策を動かしたわけです。
AIが仕事を奪う不安は消えず、住宅価格も高止まりするなか、データセンターの税収を地域の資産形成に振り向けるという発想は、これからのアメリカに必要なモデルかもしれません。
高額な設備を抱えるデータセンターは、固定資産税・設備税の観点からみても安定した収益源です。
それを持ち家購入支援へ回すヘンリコ郡の試みは、住宅市場にも労働市場にも新しい視点をもたらすのではないでしょうか。
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