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こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
今日は、ニューヨーク市で進められている少し異色とも言える住宅政策について触れておきたいと思います。
この法案は「誰が老朽化・困窮したアパートを救うのか」という、都市住宅問題の核心に踏み込む試みです。
2025年12月、ニューヨーク市議会で可決が見込まれたものの、結局は市長の拒否権により再投票が必要となったCommunity Opportunity to Purchase Act、通称COPAです。
この制度は非営利団体に対して、アパートが市場に出る前に「最初に買う権利」を与えるという仕組みです。
背景には2025年の市長選挙で明確になった「家賃が高すぎる」という市民の強い不満があります。
新市長に1月1日に就任したゾフラン・マムダニ氏も、住宅費高騰への対策を最重要課題に掲げています。
COPAは単なる補助金や家賃規制とは異なる角度から、住宅の「所有構造」そのものに介入しようとする点が特徴です。
対象となる物件のオーナーは売却を検討する段階で、市と事前認定された非営利団体に通知しなければなりません。
その後約45日間、非営利団体側に購入意思表示とオファー提出の猶予が与えられます。
この「最初の一手」がなければ、非営利団体は投資家やデベロッパーとの競争に太刀打ちできない、というのが支持者の主張です。
実際にニューヨーク市全体の空室率はわずか1.4%と、極めて逼迫しています。
その一方で月額1,100ドル以下の低価格帯住宅に限ると、空室率は0.7%まで落ち込みます。
つまり本当に必要とされている住宅ほど、市場から消えやすい構造になっているわけです。
このCOPAを強く支持しているのが、市議会議員のサンディ・ナース氏です。
「ニューヨークを離れているのは富裕層ではなく、家賃に耐えられなくなった労働者世帯」
と明言し、非営利団体やコミュニティ・ランド・トラストに物件取得の機会を与えることで、恒久的な低価格住宅を守れるという考え方を打ち出しています。
実際に、同様の制度はすでに他都市で導入されています。
ワシントンD.C.では40年以上前からTenant Opportunity to Purchase Act、いわゆるTOPAが存在します。
その結果、同市では市場価格で自由に貸し出されている住宅は全体の約2割にまで減少しました。
残りは
- 家賃規制
- 公的所有
- 補助金
- インクルージョナリー・ゾーニング
など、何らかの保護下にあります。
ただし家賃水準そのものは決して低くなく、D.C.の平均募集家賃は2,276ドルと、全米平均を大きく上回っています。
新規供給が進まない理由の一つとして、こうした制度が再投資を難しくしているという批判もあることも事実です。
同様の制度を2019年に導入したサンフランシスコでは、約500戸の低価格住宅が維持され、1,000人以上の住民が立ち退きを免れたとされていますが、規模としては限定的ですがながら「ゼロよりは確実に意味がある」という評価も根強いものです。
その一方でこのCOPAに強く反発しているのが、小規模オーナーや家主団体です。
この制度が売却プロセスを最大120日以上遅らせる可能性があると指摘しており、確かにその間もローン返済、固定資産税、保険料、修繕費は止まりません。
大手投資家と違い、6〜30戸規模のオーナーには数か月分のキャッシュバッファーがないケースも多いのです。
制度上は極小規模やオーナー居住型物件は除外される予定ですが、ニューヨークでは、いわゆる「小規模オーナー」でも複数棟を所有していることが珍しくありません。
結果としてCOPAの対象になりやすいのは、まさに経営的に最も苦しい層だ、というわけです。
さらに家賃凍結方針が重なれば、収益悪化を理由に売却を検討するオーナーが増える可能性もあります。
そのタイミングでCOPAが発動すれば、非営利団体に優先権が与えられる一方で売主側には追加の手続き負担が生じます。
ここで問われているのは単なる賛成・反対ではなく、
困窮した建物を、誰が、どのスピードで、どの価値観のもとで引き取るのか。
市場原理を優先するのか。
それとも、コミュニティによる長期保有を選ぶのか。
COPAは、その選択をニューヨーク市全体に突きつけることになります。
けれども住宅を「投資商品」と見るのか、「生活インフラ」と見るのか。
その価値判断が、これからの大都市の不動産政策を左右していきそうです。
その意味ではCOPAは単なる住宅法案ではなく、ニューヨークという都市の将来像を映し出す試金石になろうかと思います。
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