こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサル タントとして働く佐藤です。
先日、南カリフォルニアでハイエンドに特化した住宅物件を手掛ける気鋭のデベロッパーA氏と打ち合わせをしていました。
A氏はもともと中東の国の出身で50代のベテランです。
彼の手掛けるデザイナー物件はため息が出るものばかり。
数年前に大型物件の修繕プロジェクトでお世話になったのですが、その時も初めて現場に入るなり
⇒ 残して改築されるべき箇所と改築方法
⇒ 大きく取り壊して新しく入れ替えるべき箇所とデザイン
等をビシバシとゼネコン担当者に指示を出し、
「こういう人が仲間にいると頼もしいなー。」
と頼もしく感じたものでした。
その彼が現在手掛けているのが南カリフォルニアの海岸沿いに面する7000スクエアーフィートはある三階建てのハイエンド物件です。
この物件のプロジェクトは5年前に開始され、今は仕上げの段階に入っています。
ご近所の物件はせいぜい3000スクエアーフィートですので、その一帯ではかなり目立つ物件です。
物件内のなんと約70%はガラス式になっており、屋内のリビングに面する壁は自由に出し入れが出来る可動式となっており、ただでさえ広い空間が更に広くなります。
ところが、A氏曰くこの物件はかなり予算オーバーしているのだそう。
どれくらい予算オーバーなのか聞くと、
「多分$450,000くらい」
とのこと。
。。。
予算オーバーが$450,000。。
メンフィスのようなキャッシュフロー市場であれば三軒は購入できてしまいそうな額です。
それでも購入するどこぞの富豪はいる為に出口で困ることはないそうなのですが(自分でしばらく暮らしてから売却するつもり)、これだけの予算オーバーには当然理由があります。
その理由とは、昨年2018年に南カリフォルニアで繰り返し発生した大規模な山火事。
記憶する方々も多いと思いますが、昨年の南カリフォルニアの山火事は近年まれにみる被害を出しました。
そしてこの昨年の山火事が未だに南カリフォルニアの建築業界に影響を与え続けているというのです。
今日は、現役のデベロッパーA氏から聞いた南カリフォルニア建築市場の深刻な事情についてお伝えさせて頂きます。
山火事が建築業界にもたらした影響

まずは昨年発生した山火事がどれくらいの規模の惨事であったか、その片鱗が伺える映像をみてみましょう。
下記はドローンで上空から撮影されたもので、映っているのは被害にあった街並みだけですのでこのページに直接貼り付けようかと思いましたが、念の為外部リンクとさせて頂きます。
昨年の山火事後の映像一部はこちら。
。。。
映像で見ると、いかにその被害が広大な面積に及んだか分かりますね。
そしてA氏によると、この時に焼け落ちが物件の総数はなんと15,000件以上なのだそう。
幸いなのは、その多くは火災保険に入っていたことです。
けれども災難なのは保険会社。
保険会社としてはここまで大規模な山火事は想定していなかったわけですが、当然ながら保険会社としては契約を交わした以上は全ての補償を支払う義務があります。
そしてこのことが、冒頭のA氏が頭を抱える建築業界への深刻な問題につながっていったのです。
分かりやすく、そのドミノ倒しで起こった山火事後の影響を時系列にみてみましょう。
1.保険会社による補償額の大きさ
全焼した約15,000件の物件を補償することを想像してみてください。
もちろん一つの保険会社が全てを担うわけではありませんが、保険業界で相当な負担になっていることは想像に容易いものです。
そして全焼した物件を補償する場合、通常は「建物が再建されるまでのホテル代」も含まれます。
一件だけでも負担するホテル代は相当な額になることが予想できますね。
そうすると、保険会社としては当然ながら「再建築にかかる期間を一日でも短くしたい」と考えます。
2.施工業者が一気に不足
するとどうなるか。
保険会社としてはこぞって「Aランクの施工業者」、すなわち熟練工を獲得する必要があるのです。
Bランクの平均的な業者やCランクの未熟な業者では仕事のスピードと質でどうしても見劣りしてしまいます。
下手に仕上げるとかえって保険会社の負担が大きくなる可能性がありますから、評判で腕利きのいいAランクの業者は引っ張りだこになるのです。
結果として南カリフォルニアの建築業界では、それでなくとも技術者が不足していた昨今の傾向に加えてますます熟練工は被災地に引っ張られ、深刻な人手不足になっているというのです。
3.工賃が跳ね上がる
そして言わずもがな、引っ張りだこにあるAランク業者の工賃は過去最高レベルで高騰しているといいます。
BランクはこれまでのAランクの価格になり、
CランクはこれまでのBランクの価格になる、
そんな工賃の高騰が起きているわけです。
ここがA氏が最も頭を抱えている部分であり、5年前にプロジェクトを開始した時には2018年の山火事など予想もしていませんから、今の工賃の高騰は完全に想定外だったわけです。
4.工事が滞る
そして話は工賃の高騰のみには留まりません。
これはA氏も間近に経験していることですが、
⇒ 今まで現場に通っていた技術者が来なくなる(高い報酬の山火事現場に向かう)
⇒ 現場の人数が減る(10人通っていたのが3名になる等)
このような現象が起きているといいます。
ほとんどの業者が山火事被害のあった地域の回復に引っ張られ、ロサンゼルスを中心とする地域の建築現場では圧倒的に人不足となっているのです。
結果として、A氏のようなデベロッパーは新築物件の工事を継続しようと思えば代わりの業者を選定しなおすしかありません。
ところが、一つのプロジェクトには相応の保険をかけることになりますが
「プロジェクトの最中に施工業者が変わった場合、それまでのプレミアム(保険料)が跳ね上がる」
というのです。
保険会社の言い分としては
「別の業者に変更される場合、以前の施工業者によるミスをカバーする事態が発生した場合は新しい業者に責任を転嫁することは出来ず、被保険者がそのリスクを背負う必要がある」
というもの。
結果としてA氏は工賃と保険料で相当な予算オーバーに見舞われているわけです。
。。。
今日はA氏が教えてくれた、今の南カリフォルニアで起こっている建築業界の深刻な問題について触れてみました。
とどのつまり、この憂うべき現状の代償は新築物件を建てる家主、果ては賃貸物件の場合はテナントへの家賃に反映されてくることになります。
南カリフォルニアの建築業界の動向が不動産市場そのものに与える影響について、より注意深く観察し続ける必要がありそうです。