こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
ほぼ連日、アメリカ不動産市場に関する記事を目にすることがあります。
「アメリカ不動産価格は依然、高止まり」
「買い手が少なく需要減退期にある」
これは紛れもない事実であり、
コロナ禍で一気に膨れ上がった価格
量的緩和政策の副作用である高いモーゲージ金利
これらに圧迫され、需要が減退しています。
まさに今日のアメリカ不動産市場において大きな障害となっているのは
「ここまでになると、購入希望者が家を買う余裕がない」
という点です。
そこで全米不動産業協会(NAR)が約2200人の購入希望者に対して行った調査によると、家を買わない最も一般的な理由にあげられたのは
「今の価格で購入できないから、価格が下がるのを待っている」
というものでした。
これと同様に多くの人々が答える理由は
「住宅ローンの金利が下がるのも待っている」
とうものです。
言われてみれば「それはそうだよね」という理由ですが、
⇒ 高いから値段が下がるまで待つ
⇒ モーゲージ金利が下がるまで待つ
これは当然、一番最初にくる理由ではないでしょうか。
何かに迫られて切羽詰まった状況でない限り、
「どうしても今、家を購入せねばならないというわけではない」
「購入した方がいいのは分かっているが、それ以上に今の価格と金利では無理」
という人々がほとんどなのです。
言い換えると、
「条件が揃えば購入したい」
という隠れ需要は多くあるものの、現在の価格とモーゲージ金利では行動が起こせないという層が多いことになります。
この点を深堀してみましょう。
人種間の格差が影響する
今の市場で買い控える人々の多くが共通して語る
「今の価格で購入できないから、価格が下がるのを待っている」
「住宅ローンの金利が下がるのも待っている」
という理由を掘り下げて見ると、その詳細は
- 自分が購入できる手ごろな価格の家が不足している
- (物件価格が高い為に)ダウンペイメントの積み立てが難しい
- (ローン条件が厳しい為に)住宅ローンの審査に通らない
ということが挙げられます。
そして全米不動産業協会(NAR)が調査から理解した状況は
「特に初めて家を買おうとしている人々にとって、状況はかなり厳しい。ダウンペイメントを積み立てることができないこと、複数のオファーや現金で買える人々と競合する懸念が、潜在的な購入希望者を抑えている」
とのこと。
要するに価格競争以前に、初めての購入者がダウンペイメントを積み立てようとしても、目先の家賃の急上昇により積立が進まない人々が多いのです。
これに加えて
- クレジットカードの支払い
- 学生ローンの返済
- 車のローン
- 医療費
- 保育費
などが貯金を食いつぶしており、更にインフレもほぼすべてのものを高くしています。
これらの諸条件が重なってダウンペイメントの貯蓄が進まず、少数派の家の購入希望者にとっての障壁は特に高いです。
更にここに加え事情を複雑にしているのが、「アメリカ不動産市場の人種格差」です。
統計によると
「アフリカ系アメリカ人やヒスパニックの家の購入希望者はより厳しい状況にある」
ということが分かっています。
「低価格帯での住宅建設の不足、現在の所有者が引っ越したがらないという状況が更に状況を悪くしている」
という状況があり、今回の調査でも白人以外の購入希望者が住宅ローンを得られなかった割合が高く、実際に住宅ローンに申し込んだ
アフリカ系アメリカ人 … 約16%
ヒスパニック … 約14%
が審査が通らなかった事実があります。
ローン審査に通らなかった人種はこれに
白人 … 約12%
アジア系 … 約7%
と続きます(アジア系が審査通過率が最も高いのは興味深いところ)。
審査を通過しなかった理由のほとんどは
- 低いクレジットスコア
- ダウンペイメントの不足
です。
このことを単純に考えると
「いや、特定の人々のお金の使い方がまずかったのでは?」
「借りたお金を返す、貯蓄をする、という単純な積み重ねでよいのでは?」
と思ってしまいます。
それは事実なのですが、より現実を見ると人種間の経済力の底力には確かな差があります。
現実には、多くの白人以外の物件購入希望者の家族は、白人の購入希望者の親戚と比較すると財政的支援が出来る割合が低いことが分かっているのです。
またここには人種差別が絡む点も、事を複雑にしています。
例えば、家を所有することはアメリカ人が伝統的に次世代に富を築いていく主な方法の一つです。
けれども第二次世界大戦後、米国政府は白人の退役軍人に対しては家を簡単に購入できるようにしましたが、白人以外の退役軍人に対してはこの福利厚生はありませんでした。
すなわち白人の場合は
- 家族・親族による支援
- 政府支援
の機会が比較的多いのに対し、白人以外の場合はそのような経済的支援を受けられる機会は少なくなっています。
また物件購入の機会においても未だに差別を経験する場合があり、全米不動産業協会(NAR)によると約6人に1人の家を探している人々が家探しの過程で差別を経験しているというのです。
人種別に見ると
アフリカ系アメリカ人とヒスパニック … 約16%
アジア人 … 約14%
白人 … 約13%
が何かしらの差別を受けたと考えており、その中で白人以外の半数以上は
「自分たちが人種に基づいて差別された」
と信じているといいます。
結果として、アメリカ不動産市場の難しさはこのように価格や金利の高さのみならず、人種間の格差も健全な市場活動の頸木になっていることは間違いなさそうです。