こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
NAR(National Association of Realtors、全米不動産協会)にはおよそ全米150万以上の米国不動産取引有資格者が所属しています。
厳密には不動産取引有資格者にはNARへの加入が義務付けられているわけではありませんが、不動産資格を取得したほとんどの者がその流れで加入しており、私(佐藤)も協会のメンバーです。
厳密には不動産取引有資格者の呼称である「Realtor、リアルター」とはNARのメンバーに与えられるもので、協会に所属することでリアルターとしての活動の支援を受けているのです。
もともと全米不動産協会が発足した理由は、アメリカ合衆国における不動産取引の透明性を確保し、売主と買主の双方の利益を守り、より安全な物件売買を実現することにありました。
今でこそ安心できる不動産取引が実現していますが、ほんの100年前までは取引詐欺の類が横行する世界だったのです。
その不動産業界を100年かけて整備してきたのが全米不動産協会であり、およそ米国で不動産取引をする人々はほぼ例外なく、その活動の恩恵に預かっていると言えます。
懸命に不動産業界の規律を整えてきたはずが、皮肉にも
「反競争的な手数料構造の主導している」
「MLSを不当な競争に利用している」
「反トラスト法に基づく違反が横行している」
という原告の主張により、係争が続けられてきました。
その流れを
背景と発端:National Association of Realtorsに対する訴訟の始まり
訴訟の詳細:反競争的慣行の主張
和解の条件:全米不動産協会による大規模支払いと業界の変革
影響分析:不動産市場における新たなルールと課題
の順番に見ていますが、今日は和解の条件について、詳しく押さえておきましょう。
和解の条件
率直に、今回の大型訴訟は今後のアメリカ不動産取引にかなりのインパクトを与えてくると思います。
実をいうと、私(佐藤)が所属するケラーウィリアムズはこれよりも前に和解に踏み切っており、各支部では今後の対応に追われている真っ最中です。
そしてNARが進めている和解条件は、下の4つに絞られます。
支払いの合意 ⇒ NARが418ミリオン(627億円)の支払いに合意。
MLSルールの変更 ⇒ エージェントへの報酬提供をMLSを通じて行う慣行の廃止。
業界慣行の改革 ⇒ エージェントへの報酬支払いに関する新たな手法の採用。
エージェント契約の必須化 ⇒ 2024年7月から購入者代理契約の使用を義務付け。
それぞれを見ていきましょう。
1.支払いの合意
まず最も大きな点として、NARは418ミリオン(627億円)という莫大な金額の支払いに合意したことが特筆されます。
この合意は、NARによる不動産業界における反競争的な慣行に対する法的な対応を示しており、その規模と重要性は業界における大きな転換点となるものです。
418ミリオン(627億円)という合意金は、訴訟を通じて提起された不動産業界における一連の問題に対する、ある種の賠償と見なすことができます。

ちなみにこの支払い合意が、NARが業界におけるその手数料の構造やMLSの利用に関する慣行によって市場の公平性を損なっていたことを認めるものだ、と受け止められると思いますが、NARは早期決着の為に妥協を選んだものであり、今回の原告の訴えは何一つ認めてはいません。
2.MLSルールの変更
「MLSルールの変更」に関する重要な部分は、不動産業界において長らく標準的な慣行であった、エージェントへの報酬提供を複数リスティングサービス(MLS)を通じて行うシステムの廃止です。
これまで、不動産取引においては、売り手側のエージェントが物件をMLSにリストアップする際、購入者側のエージェントに対する報酬も設定するのが一般的でした。
少なくともアメリカ不動産をMLS上で探した経験のある方々は、「エージェント手数料〇%」という記載をみた記憶があるのではないでしょうか。
実際には、NARがMLS上に報酬の記載を指導していた事実はありません。
けれどもアメリカの住居物件取引においては
「エージェントの報酬は売主が支払うもの」
という理解が慣例化していたことは事実であり、その流れで当然のようにMLS上で手数料が記載されていたことも事実です。
そこで今後においては、このMLS上での「エージェント手数料〇%」という記載は違法、ということになります。
3.業界慣行の改革
「業界慣行の改革」に関しては、特にエージェントへの報酬支払い方法に革新的な変更が行われることになります。
従来、不動産取引においては、売り手がバイヤーエージェントに対しても報酬を支払う形式が一般的でした。
この慣行は、売り手が自身のエージェントだけでなく、購入者のエージェントにも手数料を支払うことを意味していました。
けれどもそれが当たり前になって慣例化していたことは事実であり、売主に双方の報酬を支払う義務はないことの透明性が欠け、市場価格に影響を与える要因となっていた、との主張に配慮することになります。
ここは私(佐藤)自身は疑問に思うところですが、実際には売主と買主の双方が目にするエージェントとの契約書には
「報酬は交渉で決められるもの」
と、黒の太文字で書いてあるものです。
それに加えて私の場合は、仲介業に入る前に口頭で報酬についてはきっちり説明を行っています。
それぞれのエージェントも基本を順守する限りは問題ないはずであり、透明性が欠けていた、との主張には首を傾げてしまうものです。
4.エージェント契約の必須化
そして「3」の続きになりますが、2024年7月からは、バイヤーエージェントとの間でのエージェント契約の使用が必須となります。
これまでの慣行では、購入者代理人との関係がしばしば非公式であったり、契約書に基づかないケースも少なくなかったと言われており、この新しいルールによって、購入者とエージェントの間の関係が正式な契約によって定められることになります。
エージェント契約の必須化は購入者とエージェントの間の責任と期待を明確化するためのものであり、この契約書には、サービスの範囲、報酬の額と支払い方法、双方の義務と権利などが具体的に記載されることになります。
これにより、購入者はエージェントが提供するサービスの内容をより正確に理解し、エージェントは自分の業務と報酬が明確に保護されることを確保できるというわけです。
ただし、ケラーウィリアムズで長年勤めてきた立場としていえば、この主張も少なくとも私(佐藤)が共に仕事を進めてきたエージェント達には全く当てはまりません。
ケラーウィリアムズ社としては、クロージングを完了するにあたり、エージェント自身がこれらエージェント契約を結んで仲介活動をしていた証拠を、署名済の書類を提出して証明せねばならないのです。
さもなくば自分自身にコミッションが入りませんから、少なくともケラーウィリアムズ社の中では契約を結ばずに活動していたものは皆無と言えます。
いずれにせよ、業界全体として、和解の条件として「エージェント契約の必須化」が含まれることになります。
。。。
そこで今回の和解をもって、アメリカ不動産業界はどのように変化していくのでしょうか。
最後に、今回の和解による業界への影響を検証してみましょう。
明日に続けます。
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