こんにちは。アメリカで不動産エージェント兼コンサルタントとして働く佐藤です。
「保険が急に高くなりましたが、なぜでしょうか?」
そんな類のご質問を頂くことが増えてきました。
賃貸物件を保有するにあたり保険は必須ですが、その保険料が更新の際に大きく値上がっていることを懸念しての問い合わせです。
それは決して気のせいではなく、実際に保険料は全米で大きく値上がりしています。
その影響により変化が非常に顕著な州の一つが、カリフォルニア州です。
カリフォルニア州での住宅保険市場における最近の動向そして、大手ステートファーム社が72,000件の住宅及びアパート保険の更新を停止すると発表しています。
この撤退は本年2024年7月より実施される予定で、保険業界が現在直面している様々な要因に起因するものです。
このあたりは簡単に予想できると思いますが、その撤退の背景にはインフレ、規制コストの上昇、そして特に山火事のリスク増加などが挙げられます。
ステートファーム社は、カリフォルニア州からの撤退決定が
「決して簡単な決断ではなかった」
と強調しており、同社の財政健全性の慎重な分析の結果、徹底せざるを得なかったことを明らかにしています。
そもそもがカリフォルニア州は全米の中でも非常に大きなマーケットであり、同時に全米の中でも高所得者が多いことからビジネスは展開し易い州のはずです。
けれどもインフレ、災害への露出、再保険コスト、そして数十年にわたる保険規制の制限による影響から、マーケットの大きさがそのまま重しとなり、撤退を余儀なくされたことになります。
今回のステートファーム社撤退は、州全体で約30,000件の住宅保険と42,000件の商業アパート保険に影響を及ぼすとされています。
これらはステートファーム社のカリフォルニア州内での一般保険件数のわずか2%強ですが、カリフォルニアの不動産所有者にとっては大きな打撃となるはずです。
このように保険会社が顧客に対する保険料の引き上げや、保険の提供を中止する傾向は続いており、ステートファーム社は昨年からカリフォルニアでの新規住宅保険申込みを停止していました。
ちなみにこの保険会社によりカリフォルニア州からの撤退は賃貸物件の保険のみならず、車両保険も同じです。
私(佐藤)自身もそれまで使用していた、比較的安い車両保険が突然
「本年は更新は行われず、今契約が最後となります」
と告知された為に問い合わせたところ、被保険者(佐藤)に非があるわけではなく、ビジネスの継続そのものが難しいということでした。
さらに別の保険会社、Allstateや他の大手小売保険会社も、山火事や州内での事業運営コストの上昇を理由に、新規住宅保険の販売を一時停止したり、ポリシーの更新を中止しています。
これにより、多くのカリフォルニア州の住宅所有者が影響を受けており、
プライベート保険会社が高額な保険料を課す
リスクの高いエリアでの契約更新を拒否する
のどちらかが実施され、多くの人々が州運営の保険プログラムである「FAIRプラン」に頼ることになっています。
カリフォルニア州全体に広がる影響
このようなカリフォルニア州の保険業界の撤退は、不動産市場に深刻な影響を及ぼしています。
ステートファームのような主要保険会社が数万件の住宅保険ポリシーの更新を中止すると発表したことは、住宅価格と売買活動に直接的な影響を与え始めているのです。
住宅保険が利用できなくなることは、購入希望者が住宅ローンを受けることにその影響が直結します。
通常、住宅ローンの提供者は住宅保険の加入を要求するため、これができないと住宅購入が困難になるからです。
そしてこのような状況の背景には、気候変動に起因する増加する山火事リスクが大きく影響しています。
このカリフォルニア州で近年立て続けに起こる山火事については過去に項を上げていますが、気候変動による熱波や干ばつが火災リスクを高め、保険会社がカリフォルニア州での業務を縮小する一因となっているのです。
実際に、サンディエゴ郡における統計では、山火事リスクが10ポイント上昇するごとに、住宅価格が平均1.3%下落することが明らかにされています。
さらに、住宅保険料の全米平均の上昇も問題です。
2023年の平均年間保険料は1,522ドルに達し、前年比で11%の増加となりました。
このような全国的な保険料の上昇は住宅所有者にとって大きな負担となり、一部の人々は高額な保険料により家を売却するか、他州への移住を検討する事態に追い込まれているほどなのです。
カリフォルニア州での住宅保険料は、他の州と比較して比較的低い水準に留まっていますが、これは他州よりもコストがかかっていないわけではなく、カリフォルニア州内の厳格な保険規制によるものです。
カリフォルニア州は保険会社が加入者に課す料金に厳しい制限を設けており、これが保険料の相対的な低さの原因となっています。
けれどもこのような規制環境こそが保険会社にとってはビジネスを続ける上での障壁となっており、これが保険業界のカリフォルニア州からの撤退を加速させているわけで、前述のステートファーム社のような大手でも撤退を余儀なくされているわけです。
かくして、カリフォルニア州の住宅保険市場は、気候変動、経済的圧力、そして規制のバランスを取る必要性に直面しています。
保険業界と不動産市場、そして投資家を含む住宅所有者は、これらの課題に対応するための新しい戦略とソリューションを模索する必要に迫られているわけです。
明日に続けます。